表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/123

108話:市街総力戦⑬【西側】

 【西側】の空が黒く染まる中、続々と役者が集結する。


「1、2、3……なんだ5人しかいねぇぞ」

「すでに連絡は入っているだろう、エミット達はアウトだ」


 ワイバーンの鳴き声が遠ざかる中、足音と共に応答がある。


 ストリックのぼやきに応じたのは、最後に合流したスカル。その後ろにはテレサの姿もある。【西側】に集まったのは彼ら3名のみであり、ミーコを下したオルゲートとリュウレイが出迎えていた。"十拳"の内、クシャーナとハクマを除いた8名が各地に散り、激戦の中でそれぞれ役割は果たしたものの、エミット、セミテスタ、ヤムの合流は叶わなかった。


「黒騎士と弓兵もいねぇのかよ」

「それだけ【東側】が激戦区だったということだ」


 "十拳"に次ぐ実力者も、この場にはいない。


 【黒槍騎士】ギルハートは大きな負傷は無いものの、ほぼ全ての魔力を使い切った。【見敵必中】マキリは捨て身の攻撃でイルル打倒には大きく貢献したが、その傷は深かった。体力、魔力と消耗の濃い者は無理に合流はせず、ゾンビの残党処理とその場の警戒に当たることとなった。ハイロが再び行方を眩ませた以上、各地に最低限の戦力と目は必要との判断だった。


「ちっ……火力役もまともにいねぇのに、あれとやんのかよ」


 ストリックが苛立ちと共に吐き捨てる。


 見上げるのは、天高く伸びる影の塔。砂時計のように地面から影が広く吸い上げられ、空を埋めようと再び上部で広がっている。これは破壊した神器:【呪縛の魔鏡サクリファイス】から溢れ出たもので、収拾がつかず今に至る。よくよく見ればその塔は無数の触手のようなもの塊で、近づくものに自動で反撃する習性があるようだった。


「いっそのこと、町の新しいシンボルにしたらどうだ?」

「現実逃避しても仕方なかろう。それより、鍵の件だが……」

「ええー、まさかあれの中ですか!?」


 愚痴が止まらないストリックを制し、話題の方向転換を図る。


 オルゲートが話すのは、【潜むもの】が持つ、クシャーナ解放の鍵である。彼女が捕らわれている氷杭の解除を担うとされるものだが、一つはイルルが左耳に付けていた青いイヤリングだった。そうなると、もう一つの鍵も想像はつく。テレサがオルゲートの見る先に反応する中、露骨に視線を移す。


「……なんだその目。こっちもギリギリだったんだ、無茶言うな!」

「何も言ってませんけどー」


 リュウレイとテレサが戯れる中、スカルの眼が塔を睨む。


「どちらにせよ放ってはおけん。動ける冒険者の中で、魔術師を多めに引っ張ってきた。消耗戦になるだろうが、これ以上悠長に構えている時間もない」

「けっ、しゃーねーな。魔法バカの二人がいないのはあれだが……お前らも冒険者やってるなら、でかい花火の一つでも上げてけよ!」

「「「は、はいっ!!!」」」


 ずらっと隊列を組む魔術師達が、緊張した面持ちで声を上げる。


 "ドラデリ"のワイバーン部隊をフル稼働して、現状で揃えられる戦力は集結させた。その中には、ひっそりと死霊術師ネルチェの姿もある。ギルド長ジークや【千年樹】クリストなどと中央で待機していた彼女だが、いよいよ事の大きさに前線に出る決意を固めたらしい。


「ネルチェおっすおっす、祭りは参加しないとなー」

「黙りなさいポポロ。あなたほど能天気になれないのは分かるでしょ」

「ありがとうアイネ。でも大丈夫。覚悟は……決めたから」


 ネルチェの望みはただ一つ、ハイロを止めたい。


 彼が始めた戦いはいよいよ佳境に入り、多くの人々を戦乱へと巻き込んでいる。規模で言えば最大級の戦が控えている中、これ以上黙って見ているなんてできない。ネルチェの強い意志の元、同じく付いて来た【夜妃】アイネが、二頭身の人形姿でフォローしている。彼女も同じく死霊術師であり、適性は人のテイム。アイネの後ろには、剣を胸に構えたまま直立で佇む鎧の兵隊の姿があった。


「おまえらバリエーション豊かだな」

「そうだろー、大好きな家族だっ!」

「コホン……精々足を引っ張らないよう、頑張らせて頂きます」

「ははっ、お手柔らかにね」


 通りすがったストリックがポポロの頭をバシバシ叩く。


 高いレベルで、実質3人分の戦力を持つネルチェの参戦は大きい。その中でも【剣聖】レギルスの魂を使役するネルチェの実力はスカルと切り結べるほどであり、"十拳"の半分を欠く中、最早やってもらわなければいけない戦力に違いない。着々と秒読みで決戦の時が迫る中、冒険者がざわつき自然と道が開く。


「い、いけませんっ! 教皇様!?」

「はっは、そんな格好した君が言っても説得力ないよ」

「そ、それはっ……!」


 見れば明らかにオーラが違う人物が、衆目を集めていた。


 もはや名乗るまでもない、彼の名はハインデル=スペランサ。【統一教皇(スペリオール)】の呼び名を持つ教会のトップにして、生粋の武闘派でもある。仰々しく複数の近衛とシスターが列となって続く中、怪しいマスク姿の戦士が懸命に説得しようとしていた。


「教会の立場はどうされるのですか!?」

「何も変わらないさ、何もね。ただね、私の可愛いシスターがまた世話になったみたいじゃないか。その分のお返しぐらいは構わないだろう?」


 涼しい顔でゆったりとした口調。


 威厳よりも先に爽やかさを感じさせる笑顔を振りまくが、荒事が得意な冒険者がつい道を開けてしまうほど、その存在は圧を放っていた。"十拳"の面々にもにこやかに微笑み、テレサのタックルも慈愛を持って受け止める。そんなじゃれ合いをほどほどに終わらせ、見上げるのは天高くそびえ立つ影の塔。


「戦線の口火、悪いけど私が切ってもいいかな?」

「なんでもいいぜ。ただ、やるからには派手なやつな」

「もちろんさ。では――――」


 ストリックの了承に頷き、厳かな法衣をはためかせる。左手を伸ばし、手のひらを目標に向ける。パチパチとピンクの稲妻が弾ける中、短い詠唱が告げられる。


「『刀剣術式』――――『明けの地平(ホライズン)』」


 神器:【呪縛の魔鏡サクリファイス】から生み出された影の塔は細長くも巨大であり、根元に立てば人など豆粒に等しく、そのスケールに圧倒されるだろう。だがそれも、彼の剣技には関係がない。それは本家本元の『刀剣術式』。対象を真横に真っ二つに両断する乱暴な力業であり、彼の視界に入るものは、その破壊から逃れる術はない。


「ばっ――――!?」

「た、倒れてくるぞぉおおおおおお!? 逃げろぉおおおーーー!!」

「おい、逃げんな! 魔術師は死ぬ気で打ちまくれ! はっ、やってくれるぜ!!」

「ふふ、お望みに応えられたようで何より。後は任せたよ」


 上機嫌な教皇は仕事は終わったと、くるりと向きを変える。


 その頭の上には先ほどまではなかった影がかかっており、それは巨大な影の塔の上半分がこちらに傾いてくる挙動によるものであった。複数の冒険者が逃げ惑う中、横を駆け抜けようとした魔術師の首根っこを捕まえ、ストリックが吠える。結局あの面積を誇る物量を相手に逃げるという選択は愚策であり、生き残りたければひたすら砕くしかない。


 こうして宣言通り派手な一撃によって、開戦の火蓋は切って落とされたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ