101話:市街総力戦⑥【東側】
こちらは【東側】の空。
セミテスタはワイバーンの背で、眼下の戦況を見つめていた。
彼女と一緒に来た"十拳"はヤム。小回りの利く彼女が乱戦に割って入り、猛烈な勢いでゾンビを駆逐して回っている。最強の援軍を得た冒険者達の士気の上がりようは凄まじく、ゾンビを押し返すほどの勢いを見せている。ヤムの天職である【踊り子】は、味方に多種多様なバフを撒き散らす。一つ一つは小さな効果だが、こういった大規模戦闘では、戦況を変えるほどの効果を生むのだ。
「私の出番無さそうだな~。後は……」
呑気に呟く暇があるほど、戦況は好転している。
そんな彼女だが、もちろんサボっている訳ではない。セミテスタが警戒しているのは、神器持ちの存在。神器が一度振るわれれば、それだけで再び窮地に陥る可能性は大いにある。だからこそ、最優先事項は神器持ちの存在確認。すでに各所ではどこに誰がいたとの報告が上がってきており、それらは"十拳"がギルドに持たされた魔道具によって情報共有されていた。
魔道具『魔触手の千里眼』。
彼らの腕には紫の腕輪が付けられており、おどろおどろしい見た目が不評を買っていた。その腕輪は硬質なものではなく、まるで生き物の触手のようにピタッと張り付いている。中央にはギョロギョロと動く目玉があり、セミテスタは面白がったがエミットなどの拒否反応は凄まじいものがあった。
その大本となったのは、《バイオレット・テンタクル》というモンスター。
とあるダンジョンのボスで、随分特異なモンスターであった。そのダンジョンに出現するモンスターは、全てボスの身体から生み出された分裂体だったのである。触手の先を斬ったところで何も得られるものはなく、長らくとても稼げないダンジョンとして知られてきた。それの調査を依頼されたのが、当時の"十拳"だったという話である。
「【西側】はミーコ、【南側】はギルガメイジュ、【北側】はストリックがああ言ってたから……こっちはたぶん……」
すでに【西側】と【南側】からは情報が回ってきている。
何も四か所に一人ずつ必ずいる訳でもないだろうが、早いところ現時点の位置だけは把握しておきたい。それには直接相対し、一度はやり合ってみる必要がある。身代わりや転移などは【潜むもの】の十八番であり、そうした心理戦をも仕掛けられていると思ったほうがいい。
「出てこないなら……あぶり出すか」
地上では勝利の女神の舞が、前線を鼓舞し続けている。
神器持ちが現れない内に、可能な限り敵の戦力を削るのは間違いではない。だが依然戦力差は歴然であり、ゾンビと違い人の体力は無限ではない。焦らす展開がいかにもこちらに潜んでいそうな敵らしいと踏んだセミテスタは、多少強引にでもその尻尾を掴みに動く。地上のヤムを通じて指示を送ると、ゆっくりと人波が下がっていく。
代わりに魔術師部隊が敵の足止めを行う中、空から詠唱が響く。
「『宙より出でよ』――」
それは三節で構成された大魔法。
「『大地を揺るがす星の瞬き――あまねく包み降り注げ』」
大地のエネルギーが空に渦巻き、全てを粉砕する星となる。
「――――『メテオ・レイン』!!!!」
【戦士の狂宴】本戦では不発に終わった、土魔法の大技。
フル詠唱で完成された魔法陣が空を眩く照らす中、大気を震わせ巨大な隕石がいくつも空に浮かぶ。土魔法の本質は、物理的質量を伴った巨大エネルギーの押し付け。防ぐにも容易ではないそれは、ゾンビで埋め尽くされた地上に大量の風穴を開けるのであった。
*
濛々と土煙が立ち昇っている。
大技を打ち切ったセミテスタの顔は、どこか満足げである。
地上に控える冒険者達がドン引きするほどの威力を見せつけ、大きく敵の数を減らすことに成功した。【潜むもの】の基本戦力であるゾンビたちはあくまで事前調達されたものであり、その総数は途中で大きく増えることはないだろう。最悪なのは、こちらが壊滅して逆に敵の戦力として取り込まれるパターン。最もそれの防止も兼ねて、ギルドや教会のバックアップ体制も整えている。
空からの様子見を終え、セミテスタも地上に舞い降りる。
「ふふん、やっぱりいたね」
土煙が晴れる中、ドーム状に展開された結界が露わになる。
「ほんま滅茶苦茶しおってからに……。やっぱりお前か、イカレどチビがっ!!」
「【東側】はイルル! こっちでバッチリ受け持つからね~」
怒り猛るのは、神器:【恵みの宝杖アダムツリー】イルル=ポッカロ。
ヤムが瞬時に隣に並び立つ中、魔道具での報告を終えたセミテスタは、不敵な笑みと共に杖を構えるのであった。




