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100話:市街総力戦⑤【南側】

 各地で神器持ちとの戦闘が始まりつつある。


 その中で一番遅れを取っているのが、【南側】。


 【西側】と同じく"ドラデリ"のワイバーン部隊で迅速に駆けつけたはいいものの、未だ地上に降りれた者はいない。ゾンビに追われる地上の冒険者の救援が急がれるが、ここでの脅威はそれだけに留まらない。平坦だった地面は今や細長い噴火口を無数に構えた火山地帯となっており、レーザーのような熱線が対空砲として猛威を振るっている。


 その中央に座すのは、真紅の女帝。


「くそっ! これじゃ降りるに降りれねぇ!」

「これ以上高度下げると、荷物の安全が確保できないっすね……」


 "ドラデリ"のギルドメンバーが口々に悪態をつく。


 彼らもこの道のプロであり、誇りを持って仕事に当たっている。これが荷物を受け取る前であれば、決死のダイビングも辞さない覚悟はあったが、何よりも優先するべきは荷の安全。安全に、確実に、指定場所に荷物を届ける。その信念が、今は彼らの動きを縛っている。そんな葛藤を感じ取ったのか、荷として同乗していた男が口を開く。


「ここでいい。降ろせ」

「は? いやいや、無理ですって!」

「いいよ私もここでー」


 平然とそう言い放つのは、"十拳"が一人、スカル=ゾゾン。


 遥か上空で旋回する竜の上で、徐に立ち上がろうとする。それに同調するのは、やはりというべきか、彼に付いて来たテレサ=スー。まだまだとんでもない高度にいる訳だが、二人はここから飛び降りるという。翼も持たない彼らではただの自殺行為であり、届ける側としても当然許容できない。そんな押し問答が少し続いた後、上空で大きな影がかかる。


「仕方ねぇな。お前ら、こっちに移れ」

「うわ、おっきい」

「赤竜……そうか、お前が【赤竜騎兵(ロンギヌス)】か」


 ひと際大きな赤竜に跨る男に、スカルがそう零す。


「ああん? ああ……今はそう呼ばれてるんだったか」


 さして興味もないのか、男の反応は薄い。


 彼の名は、ゼラ=ヴァーミリオン。【竜兜の郵便屋】のギルドマスターにして、"十拳"に匹敵する腕を持つという竜騎士である。赤竜とお揃いの燃えるような赤い長髪を濃紺のバンダナで隠し、人を射殺せそうな鋭い目つきが地上に注がれている。薄い無精髭を撫でながら、上空での荷受けを終わらせる。


「あんたらなら、確かにここでほっぽり出してもどうにかしちまうだろう。だが、それは俺らのプライドが許さねぇ。荷物を空で投げ出すなんざ、配達屋のすることじゃねぇ」

「ならば、どうする?」

「こうすんだよ! カーマイン! 後は頼んだぜ!」


 荷物を投げ出さないと言った男が、自分の身を投げた。


 カーマインというのは、彼の愛竜である赤竜の名なのだろう。短く鳴き、すぐに意図を理解したとばかりに旋回する。彼もたいがい真面ではないようで、碌な説明もしないまま、みるみるその姿は豆粒のように小さくなっていく。その先には、神器を構えているギルガメイジュの姿。すでに彼の動きはばれていたようで、神器の力で生み出された噴火口から熱線が集中して放たれる。


 あわや一瞬で蜂の巣かと思われたが、そこは腐っても一団の長。


 どこからともなく取り出した槍で弾き飛ばす。彼ら【竜騎士】は騎乗しながらでも戦えるが、普段は移動に集中するため、身に付けた魔道具に武器を収納しているのだ。彼は依然空中で落下しており、踏ん張る足場もない中で己の腕力だけでその攻撃をいなしている。さしものギルガメイジュも警戒すべき相手との見方を強めたのか、神器を構え一直線に迫る相手を見据える。


「お、よく見れば……美女が直々のエスコートかい? そそるねぇ!!」

「やかましい男は好かんが……よい、妾が直々に葬ってやる」


 【南側】での一番槍が、地面に突き刺さる勢いで迫る。


 それは本来戦力としてカウントされていなかったはずの、相手にとってもイレギュラーたる存在。落下の勢いも力に変え、天高く槍を振り上げる。【竜騎士】が持つ槍は大体が自身で倒した竜種のモンスターの素材を材料にしており、それが彼らのステータスとなる。一夜にして街を火の海に変えた赤竜、その角を加工した火槍『ロンギヌス』。それは、そのまま彼の異名となっていた。


 赤の恒星が落下し、【南側】の局面は大きく変わっていくのだった。



 *



 地上で好き勝手暴れる、【赤竜騎兵】ゼラ。


 神器持ち相手に一歩も引かない戦いぶりは、"十拳"に勝るとも劣らない。そして"十拳"である二人はというと、赤竜カーマインの背で荒っぽい運転に耐えていた。騎乗者が急遽不在となった中、変則的な機動で宙を舞う。それはまるで逆の軌道を描く竜巻。熱線による対空砲火は依然猛威を振るっているが、ギルガメイジュによる精密射撃はゼラが食い止めている。


「もうなんなの!?」

「……つまりは、奴の相手をしている間に、我らでこれを潰せと言うことだろう」


 テレサが露骨に不機嫌な悲鳴を上げる。


 彼女の機嫌を損ねることは、別の危険性を大いに孕んでいるのだが、今はそれを気にする余裕はない。スカルが気付いた通り、赤竜カーマインは熱線を高速で避けながら、その発射装置である細長い噴火口に迫っている。そして通り抜け様放たれるのは、全てを断つスカルの『天剣』。


「流石お爺様!!」


 近づいたら分かることだが、まず斬るという発想が湧かないほど、その自然の迎撃装置は巨大である。だが、彼の剣に多少の大小は関係ない。一時の間があり、彼らが通り過ぎた風がその噴火口を撫でると、地響きを立てて崩れていった。テレサの賛辞に合わせて、他の冒険者達からの喝采が上がる。


 やるべきことを把握した彼らの動きは早い。


「『パニッシュ・キル』十対――『(ケージ)』!!」


 再び赤竜カーマインが別の噴火口に近づくと、それを囲むようにおよそ二十の魔法陣が展開される。テレサが操る『刀剣術式』が眩く光る中、それぞれ対となる魔法陣が直線で結ばれ、捕らえた対象を徹底的に切り刻む檻と化す。対空砲が減ってくれば、当然空に待機していた"ドラデリ"のメンバーにも余裕ができてくる。


 一人、また一人と地に降り立っていく。


 火の粉とゾンビ両方の脅威に晒されていた、地上の冒険者が歓喜の声を上げ、反撃の狼煙が上がる。元々そこに執着していなかったとはいえ、やはり気分のいいものではない。それもこれも、全てはたった一人で空に身を投げ出し、神器持ちを抑え込んだこいつのせいだ。この男が、戦況を変えた。何度目かの槍での攻防を終え、距離を取ったギルガメイジュが口を開く。


「見事だ。名を名乗れ」

「お、口説いてんの?」

「前言撤回だ、さっさと灰になれ」

「ちょっ、可愛い冗談だろう!?」


 燃ゆる灼熱の槍の穂先が、ゼラを掠め虚空を穿つ。


「……まあ、光栄だが遠慮しとくよ。俺はしがないただの配達屋でね」

「なに?」

「そういうのは、主役同士でやってくれってことさ!!」


 後ろに大きく跳躍したゼラの動きに気を取られ、一瞬反応がおろそかになる。


 舌打ちするギルガメイジュを襲うのは、突如視界に入ってきた赤竜カーマイン。その圧倒的質量を活かし、真正面から特攻を仕掛ける。神器での迎撃を諦めた彼女の取った手は、真正面からの受け止め。これには流石にゼラも想定外だったのか、カーマインの尻尾を掴みながら「マジ?」と声が漏れる。


 地面に押し込まれ、急ブレーキをかける彼女の足が悲鳴を上げる。


 それでも彼女はその質量を伴った膨大なエネルギーを真正面から受け止め、これを耐え抜いた。外見から筋肉質には見えない彼女を支えるのは、彼女が持って生まれた『超人体質』。その怪力と神器に選ばれた素質、そして単独での群を抜いた継戦能力を支える光魔法。


 破壊と再生を乗り越え、彼女は再び神器を構えた。


「はい、そこまでー」

「お前の相手は、最初から我々だ」

「――!!」


 宙に乱れる斬撃と、全てを両断する剣戟が閃く。


 それに対応できた彼女もまた、規格外。おお怖い、とその間に空に舞うのは"ドラデリ"マスターのゼラ。すでに火槍『ロンギヌス』は収めており、手綱を力強く握り戦線から離脱していく。ゼラの作った間はフィールド攻略の一助となり、次々と他のワイバーン部隊も地上を後にする。その様子を俯瞰したギルガメイジュは改めて向き直り、神器を構え直した。


「神器:【煌炎の天槍ソールハスタ】ギルガメイジュ=サン=ケヴィット」

「"十拳"が一人、スカル=ゾゾン」

「同じく、テレサ=スー」


「「いざ――――」」


 主役が集結した【南側】の地で、赤い熱が迸るのであった。

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