10話:呪具が誘う迷宮探索④
エミットとヤムの言い合いが収まった頃、クシャーナ達はようやく本題に入ろうとしていた。
「……んで、その呪具探し? はどうしたらいいんだ」
「そうだね、せっかく人いるし手分けしようか」
入り組んだダンジョンでの探し物となると、その難易度は高い。ストリックの問いにクシャーナが答えるが、まだ概要しか知らない面々は次々に疑問をぶつけてくる。
「そもそも呪具は魔道具の一種でしょう? ダンジョンの一階層とはいえ、そんな広域に影響を及ぼすほどのものですの?」
「あー、それもそうだよねぇ」
ダンジョンで発見される魔道具は、主に装備品の類だ。
呪具だけに暴走している可能性もある。だが、一装備品がそれほどまでの効果を秘めているとは、なかなか考えづらい。そして当然行き着くべき疑問もある。
「そもそもだけど、呪具使ってるとなると冒険者なのかな? うっかり付けてそのまま呪われちゃったとか?」
「それだけでギルドが動くとは思えねぇが……。モンスターが付けてるって線はなしか?」
「使える知能があるかも未知数ですわね。……ただここに指輪をはめられそうな人型はいないんじゃなくて?」
そう、呪具はあくまで道具。
当然誰かがそれを装備して使わなければならない。そして、被害は出てこそいるものの、それはモンスターや人双方に及び、目的があって使用されているものかどうかも分からない。当然使用者の予想も立たず、ただ狂気が拡散するこの現状に危機感が募る。
「――《スワローウェポン・スライム》」
真剣な議論が行われる中、クシャーナの放った言葉に場が鎮まる。
「あくまでギルドの予想、というだけの話だけどね」
そっと付け加えるクシャーナだったが、それを聞いた周りの面々の顔が露骨に歪んでいく。それは考え得る限り、最悪の組み合わせ。そして今の事態の規模を推し量れるものだった。
*
《スワローウェポン・スライム》。
このダンジョンでは深層のみに生息する、黄色い液状のモンスターである。名前の通り種族はスライムであり、浅層に出現するものと比べると大柄で好戦的だった。このモンスターの最大の特徴は「装備品を呑み込み、能力をコピーする」ことである。
スライムだからと侮った冒険者の末路は悲惨だ。
ダンジョン内で拠り所になるはずの装備品を奪われ、その力により逆に襲われることとなる。深層に潜れる冒険者の装備ともなれば、それなりに能力値も高いものだ。粘着質且つ鞭のようにしなる一撃は、初見での見極めは難しく、数多くの冒険者が一度は痛い目を見るのだった。
そしてもう一つ注意すべき点がある。
それは凄まじいまでの増殖スピードである。装備品を呑み込み自分のものにすると、今度はその能力をコピーした同名のスライムを大量に吐き出すのである。それが彼らなりの生存戦略なのだろうが、冒険者からすれば溜まったものではない。
火を吐いただの、雷を纏っていただの、報告事例は様々だ。
そうした個体に遭遇した冒険者は、下手をこいた同業者を恨みながら、その処理に追われることとなる。放置してもさらに増えるだけなので、余力があるうちに対応するのが、冒険者内のルールだった。
もちろん事前の対処法もある。
それはわざと呑み込ませる武器を用意しておくこと。一度呑み込むと他の装備は呑み込もうとしないため、安い装備を差し出せば脅威にもなりにくい。それなりに耐久もあるため、倒すには多少時間がかかるが、それが一番安全と考えられていた。
しかしすでに呑み込んでいる場合は、どうしようもない。
力業で倒すしかないが、今回はその力業が通用するかも分からない。呪具×モンスターの特性と言う、特殊条件下での戦闘。一階層でその事象が多くみられているということは、すでに大量に増殖している可能性もある。後手に回れば回るほど、危険な状態だ。
「……今考えている通りだとしたら、急がないとまずい。皆だったら一人でも問題ないだろうけど、それはそれで別の問題がでるかも」
「同士討ちなんぞやってる暇もねぇよ。それはソロでもペアでも変わらねぇ」
「ええ、優先すべきはスピードと……自分を守る強さ、それだけですわ」
クシャーナの言葉に、ストリックとエミットが反応を示す。
先ほどは狂気に踊らされ、互いに剣を交える場面もあった。一度別れると、本当の危機への対処の遅れと同士討ちの可能性、両方が生じる。お互いの監視のためにペアを組む手もあるが、それが同士討ちを必ず防ぐとは限らない。
「結局はこうなるんだね~」
「まあいいんじゃないかな。私達はお互いに競い合う立場でもあるしね!」
セミテスタがニヤ付いた笑みを返し、ヤムが拳を打ち付けて応える。
そう彼らは何も、ただの仲良し集団ではない。互いをライバルと認め、全力で蹴落とそうとしている。互いに言いたいことを確認して、クシャーナへと向き直る。
「おっけ。スピード優先、スライムは見つけ次第処理で。自分の身は自分で守る、恨み言はなし。以上でよろしく」
誰からともなく拳を突き出し、中央で打ち付け合う。
そして次の瞬間には、各自散開していた。
呪具の効果範囲や威力がどの程度か分からない以上、同士討ちの完全な予防は不可能だ。であれば、最初から気にしない。彼らは自分以外の全てを倒す選択をしたのだった。
彼らは"十拳"、冒険者のトップに立つ者達。
彼らは誰よりも自分の実力を、そして相手の実力を信じているのだった。
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