第31話 容疑者リスト1番目ー極秘入国
都の外れにあるスクター店で、私たちは人数分のスクーターを購入した。大桜家の財力たるや恐ろしや、だ。
スクーターは、特注で、透明になって高速で飛べる代物だ。幌馬車に全て積み込んだ。これから容疑者全員に奇襲攻撃を仕掛けるのだから、必須だ。
私の攻撃力は剣を携えている時だけ、52万を超えていた。また、ミシシッピの豆もやしから譲り受けたもやしを毎日みんなで食べていたおかげで、全員の防御力は5万を超えていた。しかし、豆もやしは、保存は効かない。乾燥豆もやしを分けてもらっていたので、明日からはそれを食そう。
「由莉子、この写真、すごいわねー。あいつ、地団駄踏むわよ。」
支配者貧乏大魔神が、スマホのインスタを見て、私にそう言ってきて、私は一瞬ぽかんとした。
人間界の私のインスタには、仕事でドバイに訪れる私、パリに訪れる私がUPされていた。ドレスアップした姿で写っている。何気ない写真に見せかけて、メイクもカメラの角度もプロが関わっていた。
カモフラージュだが、これから8人の容疑者に総アタックするのだから、カモフラージュは重要だ。
マテキの大桜由莉子は、なんだか華やか社交生活にうつつのを抜かしている体にしておくのだ。
「あいつって?」
「ほーら、この前、あんたが花見の桜吹雪の中で、引き合わしてくれたあの曲者よ。」
「あー、なんかすんごい美女に化けた支配者貧乏魔神がたらし込もうとしていたやつ?」
私は思い出した。そうだ。私を二番目呼ばわりして振ったあいつと、支配者貧乏大魔神をくっつけようと画策したことをすっかり失念していた。
うちは、貧乏でもなんでもなく、大富豪だったわよ。
そうあいつに言いたいが、それは最後のお楽しみにしよう。あいつが吠えづらをかくのは、後のお楽しみだ。ざまあみろと私は思うのかな?と心の隅で思ったが、その時にならないと分からない。
マテキの組長に上り詰めて見返してやる。
その気持ちには変わりがない。だが今は、二千万世帯を救うことで頭がいっぱいだ。
「今の私の中で、あいつの優先度は最下位よ。雑魚レベルの優先度だから。」
私は、支配者貧乏大魔神にそう言い放った。
「それでこそ、姉さん。格好良いっす。」
冴衞門が横から割り込んできて、そう言った。
「うっさいな。冴衞門は、そういうことだけ割り込んでくるんだから・・・」
冴衞門と私はライバルだが、経路の中で出世しようとして、いざとなれば服も脱ぐ仲なので、距離感が本当に変だ。気持ち悪いほど、お互いのトラウマを熟知してしまっている。
今は、雑魚レベルのあいつのことなど後回しで良い。私を振ったやつのことなんて、今はどうでもいい。今回の犯人を追い詰めるためならば、どんな手も使いかねないほど、私は許すまじと言う気持ちで燃えていた。
大桜家の豪勢な庭園で、五十人のプロファイタープロレスラーは待機していた。私たちは幌馬車にスクターを乗せて、密かに出発した。
今度は草原を一っ飛びして、ロシアに入国するのだ。
月夜の草原を飛び続け、私たちは、森の影に幌馬車とプロファイタープロレスラーを隠した。
「ここからは、このスクーターで入国する。クモーダー・ボッジョは生捕にして、雇い主をはかせる。秘密公安の友人にも、私は連絡を取ったわ。」
私は、森の中で素早く皆にそう告げた。
「姉さん?秘密公安?」
「冴衞門、大丈夫よ。マテキが繋がっているわけではないわ。私の個人的な繋がりを今回は利用するのよ。」
「姉貴、悪の組織に友人がいるのか?」
「いるっちゃいるわよ。世界中の悪の組織も正義の組織も、何らかの繋がりがあるわよ。」
「泣く子も黙る一大勢力のマテキの華取火鳥って、末恐ろしい存在なんだな。」
一気にスクーターは夜空に飛び立った。レーダー網の隙間をかいくぐって、透明になったスクーターはロシア国内に入国した。
「綺羅介、例のゴッドライは持って来ているわね?」
私は空を飛びながら、密かに綺羅介にささやいて確認した。
「持って来ているよ、姉貴。」
「よし、攻撃力をあげるには、実践を積むしかないわ。使うわよ、ゴッドライ。」
「姉貴、了解!」




