第13話 大桜華取火鳥、ジコチュー男と服を脱いで経路確認する
シミュレーション室は、ざわめいた。
そうだった。運慶の顔をした人物を指さして、私は皆ににこやかに言った。
「こちらは、峰卓郎先輩よ。さっき回路に入ったら何者かにやられたらしいわ。」
運慶の顔のまま、タクローはそろりと前に進み、ただ黙って頭を下げて、ゆっくり後ろの席に移動して静かに座った。表情はうかがえないが、きっと恥ずかしいのだと思う。
私と冴衛門は、一応上司なので、先頭に陣取った。
ゼニキバとマテキが普段そろうことは、そうそうないので、皆、緊張した面持ちだ。
番頭が全面の巨大モニターに、複雑怪奇な経路図を展開した。まもなく、不気味な、関東近県がほぼ全滅する警告が出ている。
対象は2000万世帯だ。
「原因はなんなの?」
私はおぞましい図に身震いして番頭に聞いた。
「地震なのか?それとも戦争なのか?どこが攻めてくる?」
冴衞門は、さっきの私と同じことをマテキの番頭に聞いた。
「原因はまだ分からないんだ。ただ、まもなく、関東近県一帯の2000万世帯が大変なことになる。ガスも電気も水も電波すら止まるだろう。」
番頭は静かな口調で、だがかなりの早口で言った。
経路図は予告ができる。魔法がかかっているのだから、当たり前だ。
私が呼び出された時に桜の木の下に張った魔法陣で見た時も、何かとてつもないことが起きる気配が出ていた。
「隕石か?」
私は心の中ではその可能性もあると思ったが、単なる思いつきなので黙っていた。
「皆、逃げるしかない!避難だ!身を守るんだ。」
冴衞門は、少し慌てた口調で突然そう言うと、ゼニキバの自分の部下たちに合図をした。
「私は見てくるわ!」
私は勢いよく言って経路の方に向かった。ゼニキバの自己中男なんて放っておこう。金融しか頭にない奴らに、インフラ全てを牛耳るマテキの心意気なんぞ分かるまい。
私は靴を脱ぎ、薄い薄い靴下を脱いだ。
上着も脱いだ。髪をまとめた。ブラウスも脱いだ。この際、部下が見ていようとかまわない。
今日はたまたまあいつに再会するので、おしゃれをしていたために、ブラウスの下も気合が入っている。見られて全く問題ない下着だ。
「待て待て待て!」
番頭はそう言って止めた。
「待てないわよ、こんなの!」
「みんな?ダーイジョーブよ。私、今の攻撃力700だから!」
私はそう言って、経路図に、華取火鳥のキーを使って飛び込んだ。誰にも止める隙を与えなかった。
「なーに?一人で手柄にするなー!」
飛び込む瞬間に、冴衞門がそう叫んでいるような気がした。
だが、最後まではよく聞こえなかった。私は経路に見事にダイブしたから。
出世に必要なのは、度胸と失敗しないだけの力と頭と運だ。
私は経路の中を身が擦り切れそうなぐらいの超高速スピードで、動き回った。失敗して何かにぶつかれば、私だって無事ではいられないほどのパワーで動いた。
水、問題なし。
電気、問題ない。
ガス、これなんだ?
電波、これなんだ?
私は、問題を検知した場所を目に焼き付けて、赤くうねったように見える場所を素早く記憶した。私が彼の二番目になった大抵の原因は、この記憶力と頭脳かもしれなかった。
私は、私を振った男より、私は数倍も頭の回転が早かった。出世には役立ったので、奴より頭脳があったことは後悔していない。
その時だ。
靴下も靴も脱いだ、上半身裸の冴衛門が、経路を動く私の目の前に突然現れた。
そうか、やっぱり飛び込んできたか。
本当は水着くらいの薄着じゃないと、経路の中は動きにくくて仕方がない。
水の中を泳いでいる感じにとても似ている。
私が無言で指さした場所を冴衛門も見た。
私たちは顔を見合わせて頷いた。
ほぼ半裸の二人だが、お互いの姿は、かなり見慣れた光景なので、なんとも思わない。
経路の中で出世を遂げるならば、やっぱりこうなる。奴は金融だけどな。
私たちは問題とみられるガスの場所に近づこうとした。
そこに、突然、何者かがにょろりと現れて、気持ち悪い動きをして冴衛門に飛びかかった。ゆらゆらと揺れていて、大魔神に見えるけど、なんなのかよく見えない。
やっばっ!
冴衛門の顔が運慶になっているー!!
私は目を見張って状況を理解すると、一目散に撤退した。
顔が運慶になるなんて、絶対にいやだ。相手が大魔神なら、私の攻撃力だと勝てない。
私は超高速で撤退し、息せき切って、経路から飛び出した。
シミュレーション室で私は大きく息を整えていた。
部下が慌ててブラウスと上着をくれたので、大きく息を吐きながら着た。
「ガスと電波に何かあったわ。」
それだけ番頭に言った瞬間に、上半身裸で裸足の冴衛門が戻ってきた。
皆が悲鳴をあげて後ずさった。
「いよっ、冴衛門!」
やけにご機嫌なタクローの声が部屋に響いいた。
「今日は、ブッサイックだな。」
にやっと笑った運慶のタクローが、悔しそうな冴衛門に声をかけた。
「うっさい!」
冴衛門がタクローに不機嫌な声丸出しで言った。心なしか、運慶の顔が真っ赤に見える。
「多分、俺さまを運慶にした犯人は大魔神だ。」
ほほー。
恥ずかしいか。
私はニヤつきながらも、経路で問題を発見した場所を素早く図に再現して言った。私の記憶は正確だ。徹底的に問題をみた場所をマーキングして見せた。
「これって?」
私は自分がマーキングした場所を引きで見て、思わずつぶやいた。
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