第12話 ウンケイじゃん、ウケる
「由莉子ちゃん、ユリコちゃん!」
私は小声で呼ばれて振り返った。
「きゃっ!誰?」
私は思わず小さく叫んで、後ずさった。そろりそろりと後ずさる。
「僕だよ、タクロー。」
そいつは小声で言った。
「え?なに、どうしたの?」
「まじ、その顔、運慶じゃん!ウケるー!」
私はタクローに呼び止められて、笑ってしまった。
タクローの顔は、京都で見る運慶の顔に変わっていた。顔だけ運慶で、あとはいつものダンディなスーツ姿で変わらない。
「回路に入って確認しようとしたら、何かにやられてしまったんだよ・・・」
タクローはぶつぶつとそう説明した。
「タクローさん、今日ブッサイックっすね。」
私の隣にいた冴衛門が、バリトンボイスで素っ気なくタクローに言った。
「ちょっと、あんた、僕は冴衛門より確かに役職は下かもしれないけど、あんたより年上なんだから、少しは物言いに敬いと言うものを入れなさいよ!」
タクローは冴衛門に食ってかかった。
「はーいはい、運慶さん。いやでも、ブッサイックっす。」
冴衛門は、ぜんぜん気にしていないようにバリトンボイスで言った。
「もう」
タクローは地団駄踏みそうになった。
「はい、はい、そこの三人。ふざけてないで、こっちに来てください。」
組長の番頭が廊下の向こうで、私たちに手招きしていた。
「今、行きます!」
「行きます!」
「はい、行きます!」
私たちは元気よく返事をすると、速やかに番頭に従って、シミュレーション室に入った。
既に、総勢20人あまり集まっていた。マテキの大桜華取火鳥とゼニキバの冴衛門廉長の部下たちだ。




