第11話 マテキの大桜華取火鳥と、冴衛門廉長(レンチョー)
組長室は奥まった所にあるが、非常に豪勢な部屋だ。
右側には数世紀前のヨーロッパ洋館へ通じる扉があるし、左側には江戸城に通じる扉があった。
私は洋館にも江戸城の扉にも入ったことがあった。
私は緊張して番頭の後に従って、組長室に入った。
「失礼します。大桜華取火鳥です。」
私がそう言うと、窓から外を眺めていた組長が振り返った。
「久しぶり、姉さん。」
私は、思わぬ先客がいたことに心底驚いたが、顔には出さなかった。
ゼニキバの冴衛門ではないか。
顔や姿に似合わぬ、非常に低いバリトンボイスで冴衛門は、私に言った。
「あんたの姉貴になった覚えはないわよっ。」
「冷たいなー姉さん。そんなこと言わないでよ。」
イケメンでどちらかと言うと可愛らしい顔立ちで、背も低い冴衛門は、またまた渋いバリトンボイスで私に言った。
「これ、二人ともやめなさい。」
組長が険しい顔で私たち二人を見て言った。
私も冴衛門もピタッと小競り合いをやめた。
通称ゼニキバ、それは泣く子も黙る一大勢力のマテキのライバル組だ。
正式名称は文字通り、金融を司る銭奇錬金場組だ。冴衛門は、その組の自称エースの廉年勘定長、通称レンチョーだ。いわゆる組の課長だ。
ま、マテキの大桜カトリカチョーと、ゼニキバの冴衛門レンチョーは犬猿の仲で有名だ。
私が一大勢力のマテキで這い上がって出世を重ねる中で、ザエモンもゼニキバで這いあがろうとしており、その過程で色々あったのだ。
私がなぜ過剰に出世にこだわるか、こいつは知っている。最悪だ。
ニヤニヤしながら「姉さん」と親しげに言ってくるが、それすら最悪だ。
二番目呼ばわりされた私が躍起になって、根性入れて、出世階段を駆け上がるのをコヤツはそばで見ていた。笑いながらな。
組長は事情は知らないので、私たちの小競り合いにうんざりしているだろう。
「我がマテキと、ゼニキバは、今回の危機で協定を結んだ。協力し合うのだ。」
組長は私たち二人を見据えて静かに言った。
「危機の内容は番頭から詳しく伝える。だが、最初に言っておく。」
組長はそこで息を吸って一呼吸おいた。芝居がかっているとも言えるが、組長の威厳のせいで、私の耳には恐ろしく聞こえた。
「大魔神も殺せるような奴が敵だ。大桜華取火鳥、君の攻撃力は700。大魔神を殺すには1億近くもの攻撃力が必要だ。知っているな?」
「二人とも、心して取り掛かりなさい。」
「はい!」
「はい!」
こうして犬猿の仲のゼニキバの冴衛門と私は、手を組むことになった。




