第10話 大魔神ジヘン
「君は二番目だ」
とてつもなく好きだった人にそう言われたことは、確かに私のトラウマだ。どんなに頑張っても、覆すことができない事実と、人の気持ちというものに打ちのめされた。とてつもなく惨めだった。
二番目というのが、屈辱的だ。
二番と言われる時点で、相手とかなり近いところに迫っていることになる。しかし、「君は決して一番にはなれない」と言われる。
不美人だからか?勝気な性格か?だらしないところがあると思われたのか?私の仕事か?
結局はその全部かもしれないが、一番大きいのは私の家が貧乏で自慢できない嫁だからだった。
でも、結局、私はその屈辱点では止まらなかった。成り上がって幸せになろうと決めたから。
しかし、今、ラウンド2の私の目の前で起きていることは、「二番目」と言われたことよりトラウマになりそうな出来事だった。
執務室の扉を開けると、そこで、大魔神が亡くなっていたのだ。ほぼ溶けて真っ黒い液体になりかけていた。私の目に映るのは、完全な恐怖映像だ。
「きゃーっ!」
若手が叫び声をあげて、後ずさっていた。私はそう若手でもないエースなので、かろうじて、踏みとどまって叫びたい衝動を飲み込んだ。
亡くなっているのが大魔神というのだけが分かり、黒すぎてどの大魔神かは不明だった。
私はすぐに弟に電話した。
「あんた、すぐそこのカフェにまだ支配者貧乏大魔神はいる?」
「あー、いるね。なんか姉貴の知り合いの男性とめっちゃ話し込んで盛り上がっているけど?」
私はホッとした。
亡くなったのは、うちの支配者貧乏大魔神ではない。
いくら父とは離れて欲しくても、子供の頃から実家にいる大魔神が亡くなるのは、恐ろしすぎて嫌だった。
「ありがとう。助かったわ。」
私は弟に礼を言って、電話を切った。
そうか、あの二人はまだ盛り上がっているのか。一瞬そんなことを思ったが、すぐに目の前の恐怖映像のせいで、そのしめしめという気持ちは消え去った。
私はすぐに畳係を呼んだ。人間の世界でいう警察みたいなものだ。畳に睨まれると厄介だが、正直、権力なら私の華取火鳥の方が上だと思う。
「大魔神を殺せるって、一体どんな奴だ?」
私の隣でコタローがつぶやいた。
私も聞きたい。
刻一刻と2000万世帯が大変なことになる危機的状況の話を、まずは聞かなければならなかったが、目の前の恐怖映像で、私は一瞬心折れかけていた。
「組長がお呼びです。」
その時、私は組長秘書を務めている番頭に呼び出されて、ハッと我に帰った。




