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ゆるゆる掌編連載の、サイドストーリー。
単品でも楽しめるように書いております。
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大手メーカーが発売した小型ロボット玩具は、お手頃価格と豊富な拡張パーツがウリで、創作小説のネタにもってこいの素材だった。工業高校を舞台に恋愛要素を主軸に据えたロボコンものを小説投稿サイトに連載していた。
風向きが変わったのは1年後。
その玩具の、アニメ化だった。
ロボットバトルを通じて恋愛が進展していく、高校生の男女。
メーカーや商品名はボカシていたが、キャラまで被っていた。
運営に二次創作と判断されてしまったらしい。
アクセス権を剥奪された――――
そう、らしい、それは一方的だった。
突然ログインできかった、理由を確認する手段すら無かった。
創作意欲が枯れ果てて、これも趣味にしていたゲームに専念。
……する、筈だった。
スマホが簡易型VRヘッドセットに非対応。執筆のためマニアックな機種を選択していたのが裏目った。ディスプレイ内蔵型を購入すべきか悩んでリアルの友人に相談したとき、勧められたのがVR文学系フリマサイト。
【 小説家になろう商店 】
ここへ流れ着いて、もう3年。
古巣に残されたままのデータ。
パクリと揶揄されていても、なにもできなかった。
怒りをぶつけるように、こちらで書き続けてきた。
「……潮時かな」
「そうかもねー」
「引き止めろよ」
さしずめ燃え尽き症候群といったところか……ん?
なんで最初の1冊目を鞄に入れたんだ。
ほんとコイツの行動よくわかんねぇな。
「それ、もう持ってるだろ」
「閉店するとき言ってねー」
「なんでだ」
「一緒に退会するからさー」
「はァ?!」
「長い付き合いでしょ。一蓮托生ぉ――
「ま! ……ったく」
ロ グ ア ウ ト し や が っ た 。
友人が「きっと元を取れるからー」と言った『投げ銭システム』は、3年たった今も実装されていないが、それなりに成果を上げて満足感を得ることはできた。
この連載を最後に。 ……ん、ぁ?
初めて見る、凄いユーザ名。
梅…じゃなくって猫なのか。
目の前にログインしてきた。
「見掛けない顔だな」
「あ、今日からお世話になります!」
「あぁ、堅っ苦しい挨拶はいいから」
どちらが先で、どちらが後か。
そういうことが無意味な空間。
結果だけのシンプルな世界だ。
・
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「現金なやつだなぁ、猫昆布茶さんは」
あれから30日。
ひょっこり現れた新人さんは、連載作品を1本書き上げた。
殺風景なバーチャル空間の店舗ブースに、たった1冊の本。
それでも、ここでは立派な小説家の先生だ。
「そういえば」
「……なんだ」
「書かないんですか~? 新作!」
「……えっ?」
書いてたろ、目の前で。
「あのさ」
「はい?」
書いてたろ。
喫茶店でさ。
ん?
まさか、本気で気付いてないのか?
鈍感系主人公かよ、猫昆布茶さん。
さすがに、それはないか。
「なんの取り柄も無い平凡なサラリーマンがトラックに衝突して呪文詠唱長すぎる異世界に転移したら、特技のスマホ入力で最強の魔法使いになる話」
「え?!」
慌てて執筆中小説を確認し始めた。
どうやら本物だな、猫昆布茶さん。
鈍感なのか。
「冗談だ」
「はははっ……ぐうぜんtってあrるぅんnだま~」
動揺しすぎて壊れたろ、大丈夫か?
初の短編執筆、邪魔しちゃ悪いな。
ビックリさせようと水面下で進めていたんだけど。
仕方がない。
「ロボットものだよ。ここじゃSF〔空想科学〕か」
「ロボット~?! ……SF作品、書いてました?」
「昔な」
ここに来てから避けてきて、ずっと燻ぶっていた。
3年前は既存の製品を元ネタにしていた。
今回はゼロから造ったんだ、自信がある。
さすがに、動かすことはできなかったが ――――
な、なっ、なんだ猫昆布茶さんどうした動きが変?
モーションキャプチャのエラーにしては不自然な。
店主の前で空き巣に入っていく、大胆な犯行だぞ?
あのあたり……まさかとは思うが。
探しているのは、新作の挿絵か!
勘 弁 し て く れ 。
「見るか?」
「見たい!」
「これだよ」
「ロボット、絵じゃなくって本物だ!凄~ぉい!!」
「本物って……本物っぽく作っただけで、模型だよ」
「これが動くのかぁ~! 凄く凄く楽しみです!!」
いや、動かないよ?
ポーズ取れるだけ。
挿絵だから動かなくていいんだけど。
それでも、作品の中でコイツは動く。
自律制御で躍動し、命令を遂行する。
今なら動かせる気がしたのは、些細な切っ掛けだ。
猫昆布茶さんの影響だった ――――
ロボットなら過疎ジャンルで戦闘することになる。
誰の目にもとまらずに藻掻き続けるかもしれない。
それでも、お隣さんの視界には入る……そうだろ?
「ああ。今度こそ完結する、最高傑作になるだろうな? 楽しみにしとけ」
「凄く凄く、凄~ぉく楽しみです!!」
「猫昆布茶さんは語彙が乏しいな……」
燃料は古ぼけた喫茶店の珈琲だけど。