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凡人なのに聖剣を抜いてしまった。どうしよう

作者: カバーネ

伝説として語り継がれる聖剣が、巨大な岩に突き刺さっていた。


場所はヒルデ丘の頂上付近。


そこは太陽が燦々と射す位置で、午後を過ぎると銀色の刃先にまばゆい光が押しよせ、宝玉のように刀身がきらめいた。その様相は見る人すべてに畏敬の念を抱かせた。


言い伝えでは誰も剣を抜けないまま、何百年もの月日が経っていた。


その聖剣を俺が抜いたのは3年以上も前のこと。


秋に開催される王国祭でのことだった。


普段は役人のもとで聖剣は管理されるが、祭の間は希望者に開放され少しだけ触れることが許される。


この催しは非常に人気があり大勢の希望者が列をなすのだが、その年は晴天のおかげで例年以上の盛り上がりをみせた。俺もお祭り気分で参加した。


そして順番がきたので、軽い気持ちで柄を握りしめ、何気なく引っぱったら


すぽっ


という感じで簡単に抜けてしまった。


俺は目をぱちぱちさせて暫く立ちつくした。なにが起きたのか、よくわからなかった。周囲にいた人間が、おぉー、と声をあげ、それを聞いて初めて事の重大さに気がついた。


この出来事はまたたく間に国中に伝わり、王国民すべてが驚いた。聖なる剣を抜いたのだから当然である。しかし一番びっくりしたのは俺自身だ。


――え、なんで俺が?


王族や貴族ならわかるが俺はただの平民だ。平民が抜いちゃっていいのか。


素直にそう思った。


しかし、そんな思慮深さは無駄だった。王国は熱狂につつまれ、俺は勇者として大きな期待を一身に集めた。


当時はまだ10代と若かったせいもあり、その期待を正面から受け止め、なんとか応えようと真剣に考えた。


そこで修行をまず始めた。聖剣を使いこなすため、武術に必死に取り組んだ。国王も全面的に支援してくれ、国内有数の剣術師範にじきじきに教わる機会も得られた。


しかし


結論からいうと、俺は強くなれなかった。ずっと弱いままだった。聖剣をいくら振りまわしても、平凡な相手に簡単に打ちのめされた。


王国民の期待が高かったぶん、失望も深かった。俺は段々と笑いものになり、やがて忘れ去られた。


せめてものお情けで、今は王宮の衛兵として働くことを許されている。安い賃金だが、それでなんとか日々を食いつないでいる。



  ◇



聖剣を抜いてそろそろ4年になる頃だった。


王都の南部地方にドラゴンが出現し、急遽、討伐軍が編成されることになった。その話を聞き、俺はかすかに期待を抱いた。


ひょっとして選ばれるのでは。


そんなことを考えた。


しかし、発表された討伐軍メンバーに俺の名前はなかった。


――まあ、そりゃそうだよな


相変わらず俺の剣術は上達していなかった。冷静に考えれば選ばれようワケがない。


俺は納得したし文句はなかった。


ただ嫌だったのは、周囲の視線の冷たさだ。俺をバカにし、薄笑いで視てくる人間が衛兵たちのなかに少なからず存在した。


あからさまに


「ドラゴンが暴れてるのに呑気にお城勤めか。なんのために聖剣を持ってんだか」


などと憎まれ口をたたく者もいた。俺は返す言葉もなく、無言のままやり過ごした。


こうした嫌味はしばらく続いた。しかし、ある理由で呆気なく終わった。王都に想定外の悲劇が訪れたのだ。


それは討伐軍が出発して数日後、月が奇妙に明るい夜のことだった。


俺はいつものように安い下宿に帰宅し、晩飯を軽く済ませた。そして眠るつもりでベッドに横になった。


すると


ゴー


という猛烈で異様な音が鳴り響いた。音の正体はすぐに判明した。


ドラゴンだ。


王都の中心、王宮付近にドラゴンが現われたのだ。


俺は窓から身を乗りだし空を仰いだ。


巨大な翼竜が宙を舞っていた。月明かりを背景に、毒々しい姿で揚々と、まるで支配者のように下界を見下ろしていた。


「これは」


この緊急事態が意味するのは一つのことだった。


――討伐軍が敗れた


精鋭の揃う討伐軍だったが、おそらく壊滅したのだ。でなければ、ドラゴンがここまで侵入するはずがない。


ピカッ


真っ赤な光が宙にきらめいた。その光は地上めがけて殺到した。


炎だ。


ドラゴンの口蓋から火炎が放出されたのだ。


火勢はまるで嵐のような激しさで、炎は一瞬にして街を飲みこんだ。あちこちで悲鳴が湧き起こり、逃げ場を求めて人々が往来に駆けだした。


俺は、なにをすべきか咄嗟に考えた。衛兵の一員として、できることはなんなのか。


――取りあえず、王宮に行こう


衛兵の部隊に合流し、上官の指示を仰いで戦うしかないだろう。俺は身支度を急いで整え、ラックにある聖剣に手をのばした。


すると


緑色の淡い光が手先をふわりと覆った。


「ん?」


光は聖剣から発せられていた。その光をじっと見つめると


「なにしてんの。行くわよ」


後ろで、いきなり声がした。


振りかえると、そこにいたのは少女……いや、違う。外見は少女に見えたが絶対に人間ではない。なぜなら床の上方に体が浮いている。


「だ、誰」


驚いて声をあげると、相手は睨むように俺を見て


「あんたが持ち主でしょ」

「?」

「その剣を抜いたのはあんたでしょ」


そう聞いてきた。


俺が混乱して応えを返せず、口をもごもごさせると


「ちょっと状況わかってんの。ぼやぼやしてる場合じゃないのよ。剣が目覚めて出番がついにまわってきたのよ」


少女(風のなにか)がつめ寄ってきた。


俺はなんとか口を開いた。


「きみは、、誰?」


少女(風)はイライラした様子で


「見ればわかるでしょ。ふわふわ浮いてるんだから妖精に決まってるでしょ」

「妖精?」

「そう。剣の魂が私に宿って具現化してんの。つまり、私は聖剣の妖精。名前はティナよ」


ティナよ、と言いながら、少女(風)は一段と高く舞い上がり、髪をかきあげ、アゴをツンと反らしてポーズを決めた。ビジュアルに自信があるのか、ポーズをしばらく保って、ちらっと俺のほうを見る。


これは褒めたほうがいいのだろうか。


ティナは浮いたまま、上からの目線で話をはじめた。


「わかってないようだから説明するけど、あなたが抜いた聖剣は今日まで眠ってたの」

「眠ってた?」

「そう。平和な日々が続いて、出る幕がないから活動しなかった。でも今日、たった今、ドラゴンの脅威に対抗するため聖剣は目覚めたの。さ、行くわよ」

「え、行くって、どこに」


ティナは呆れたように俺を見て


「やる気あんの、あんた」


きつく問いつめてきた。その瞬間、外で


ドドーン


大きな音が轟いた。近くで火炎がさく裂したようだ。


「ここにいたら丸焼けだよ。さ、早く」


ティナは宙でくるっと身を翻し、開きっぱなしのドアを出ていった。


直後にドドーンとまた大きな爆発音がした。


俺は慌てて聖剣をつかんでティナの後を追いかけた。


表に出ると、通りの反対側の家屋が炎をあげて燃えていた。


その付近から泣き声がした。近づいてよく見ると、壁が崩れて子供が生き埋めになっている。


母親とおぼしき女が子供を助けるため懸命に瓦礫を押しのけようとしていたが、人の力でどうにかなる大きさとは思えなかった。


「叩き壊せばいいのよ」


冷静に言ったのはティナだ。


「剣を使えば一発よ」

「剣って、この聖剣?」

「そう。他にないでしょ」

「…ないでしょって言われても」


剣は刃物であって肉体を斬るためにある。瓦礫を叩き壊すものでは決してない。俺が躊躇したまま動かずにいると


「いいから、早くやって。子供が死んでもいいの」


ティナは責めるような口調でせきたてた。それに対して


「あんなものを切りつけたら折れるかもしれない」

「折れないから」

「でも」

「大丈夫だから」

「うーん」

「あーもう、イライラする。いいから、やれって言ってんの!この、のろま!」


の、のろま。


さすがに、この言葉はカチンと頭にきた。なんだとっ!と思った。


が、今は言い合いをする場面じゃない。それはわかっている。冷静に、冷静にと自分を落ち着かせ、剣を抜いて瓦礫のほうに一歩近づいた。そして


――もう、折れたら折れたとき


なかば居直りつつ、まるでヤケクソのように横方向に腕を振りあげる。子供に接しないよう角度を見定め、そのまま剣を薙ぎ払う。


すると、ブーンと大きなうなりが発し、刃先が当たると同時に瓦礫が粉々に粉砕され四方八方に飛び散った。


え?


剣はもちろん折れたりしなかった。それどころか刃こぼれひとつしていない。


「言ったでしょ。聖剣は目覚めたの」


ティナの声がした。


俺はしばらく呆然と立ちつくし、起きたことがうまく理解できないまま聖剣を見つめた。母親が俺に礼を言ったが、内容はあまり聞いていなかった。



  ◇



城門に到着すると、そこは混乱を極めた過酷な状況だった。民が逃げ惑い、兵が走りまわり、まったく収拾のつかないまま悲鳴と怒号が乱れ飛んでいる。


走りまわる衛兵のなかに見知った顔を見つけた。小隊長のボブだ。


「隊長」


声をかけるとボブは立ち止まってこちらを振り向いた。しかし、俺の顔をちらりと見たものの、興味がないとばかりに、そのまま走り去ろうとした。


俺は追いかけて


「隊長。ドラゴンの迎撃はどのように」


指示を仰ぐつもりで問いかけた。すると


「それどころじゃねえよ」

「はい?」

「迎撃なんかできっこないだろ」

「え」

「みんな逃げてんだよ。兵はほとんど残ってない。お前も死にたくなきゃさっさと逃げんだな」

「でも」

「討伐隊がやられてんだぞ。猛者ぞろいの討伐隊で歯が立たないのに、それ以上なにができるってんだ」


ボブは吐き捨てるように言い捨て、どんどん走っていった。その姿を俺はぼんやり見送った。


「燃えるねぇ、このシチュエーション」


そう呟いたのは妖精のティナだ。


ティナは俺以外の人間には姿が見えないのか、行きかう人の誰もが、この不思議な生き物にまったく目をとめない。非常事態だから、それどころじゃないのかもしれないが、ひょっとして俺だけが感知できる特殊な妖精だろうか。


聞こうとしたら、それより先にティナが話しはじめた。


「これでドラゴンを仕留めたら大金星よ。ふうぅぅ、興奮するぅ」


妙にテンションをたかめた妖精は、心なしか顔を紅潮させていた。俺は不安を覚え


「まさか俺がドラゴンと単独で戦うと…そんなことを考えてる?」


ティナはまじまじと俺を見て、意外なことを聞かれて心外だとでもいうように


「当たり前でしょ。他に誰が戦うの」


決めつけてきた。


「いや。無理だと思うんだけど」

「無理じゃないよ。さっきの聖剣のパワー凄かったでしょ。瓦礫を簡単に吹き飛ばしたでしょ」

「瓦礫とドラゴンは違うから」

「ほぼおんなじよ」

「どこが同じだ!」

「…あのさぁ」


ティナは俺の顔をじっと見た。きつい一言をまた言いそうな気配があった。


俺は反射的に身構えた。しかし、妖精の口調は意外に優しく


「どうしても嫌なの?」


そう聞いてきた。俺は虚をつかれたようになり


「…ドラゴンと戦うとか、そんな実力あるワケないよ。俺は…弱いから」


つい泣き言が口をついて出た。ティナはゆっくり首をふった。


「あんたは弱くないよ」


と、真面目な表情になり、諭すように言葉をかけてきた。


「毎日、修練を重ねてきたじゃない。バカにされても腐らず、人の見てないところで努力を欠かさなかったでしょ。掌がマメで血だらけになっても剣を振ってきたんでしょ」


俺は言葉を飲みこんだ。なんで知ってるの、と聞きそうになったがティナのほうが


「私は見てたから。努力を続けるあんたをずっと見てたから。自分のことを弱いだなんて言わないで」

「人間相手でも負けてばかりなのに」

「昨日まではそうだったかもしれない。でも」

「でも?」

「大丈夫。自分を信じて、そして聖剣を信じて。絶対、戦えるから」


ティナの目は真剣だった。


俺は腰の聖剣にそっと手を置いた。錯覚かもしれないが、なにか力が伝わってきた。


「素直に剣を振ればいいから。小細工はなしで、まっすぐ剣を振り抜いたら聖剣のパワーで敵を倒せるの。わかった?」


ティナはそうアドバイスを送って俺を励ました。


なんだか、うまいこと乗せられた感じがしなくもなかったが、俺の気持ちは戦うほうに少し傾いていく。


――この日のために俺は聖剣を抜いたのかもしれない


ずっとバカにされ続けた年月も、考えようによっては今日にむけての準備期間だったと言えなくもない。生き埋めの子供を助けたのも或いは運命の導きかもしれない。


俺の感情は次第に熱くなり、手のひらが汗ばんだ。その手で聖剣にもう一度触れると、じわじわとエネルギーが満ちてきた。


よし。


俺は腹をくくった。


――ドラゴンと戦う


単純かもしれないが、すっかりその気になった。


この決意がティナにも伝わったのか、妖精は


「さあ、行こう」


ふわふわ宙に舞いあがり、出陣の合図のようにピピーと口笛を吹いた。すると、どこからか、ひときわ大きな鳥が


バサー


と飛来し着地した。


鷲、大鷲だった。


「乗って」


ティナが大鷲の背中を指さした。


俺は立ち止まったまま念のため確認した。


「乗る?」

「そう。敵は空を飛びまわるんだから、こっちも飛ばなきゃ戦えないでしょ」

「…ん、そうか」


普段の冷静な俺なら躊躇したと思う。しかし、今の俺は戦闘モードに入っている。大鷲に乗って空を飛ぶという非現実的な行為をすんなり受け入れ、翼の付け根あたりに足を乗せようとした。すると


「痛えーな、この野郎!」


大鷲が罵声を浴びせかけてきた。


「乗る場所が違げーんだよ。そこじゃねえよ、もっと、こっちだ、こっち」


大鷲は首をくいくい動かし場所を指図した。


――鷲がしゃべった!人間の言葉をしゃべったぞ


普段の俺ならドン引きすると思う。しかし、今は戦闘モードで、引いてる場合じゃない。指図に従い、大鷲の言うとおりにして背中にまたがった。


その様子を見届けたティナは威勢のいい声で


「じゃあ出発するよ」


そう叫んだ。しかし、すぐに訂正した。


「てか、向こうから、やって来た」


見ると、ドラゴンの姿が前方からどんどん近づいてくる。


その巨大な姿につい気を取られると、突然、グラッと体が揺らいだ。なにかと思ったら大鷲が宙に舞いあがっていた。俺の視点はどんどん高くなり、正直、ちょっと恐かった。その気配を察したのか


「いいか。絶対にお前を落とさねーから、存分に暴れてかまわねーぞ」


大鷲が言葉をかけてきた。


「わ、わかった」


声が少し震えたが、俺は懸命に勇気を振り絞り、大鷲の背中で立ち上がる。そして聖剣を鞘から引き抜くと、上段にかまえてドラゴンに対峙した。


さあ、かかって来い。


風を切るビューという鋭い音が耳をかすめた。音はどんどん加速し、ドラゴンとの距離が縮まっていく。このまま衝突するか、という際どい瞬間、大鷲が旋回した。側面に回り込んだのだ。


妖精ティナがかん高い声を張りあげ


「そこー、ぶった斬れー」


と叫んだ。


俺は無我夢中で剣を振り下ろした。


ブーン、ガツン


当たった。わき腹あたりに剣が届いた。


が、ドラゴンは平然としたままだ。ダメージはほとんど負っていなかった。


「おーりゃー」


大鷲が大きく弧を描いて方向を切りかえた。俺の体は遠心力の作用で大鷲の背中と一体のように旋回した。


そのまま加速し、もう一度ドラゴンに剣の一撃を浴びせた。


しかし、効果はなかった。効果がないどころか


「熱っ」


ドラゴンが火を吹いてきた。


かろうじて直撃を躱して離れるが、大鷲の羽がチリチリと音をたてている。翼の先っぽのほうが軽く焼けているようだ。


「くっそー」


大鷲が悔しさのあまり声を荒げた。すると、妖精のティナがもっと大声で


「クソったれがぁ!」


と罵声を発した。


そんな荒々しいカオスな状況のなか、俺は妙に冷静さを保って、自分の攻撃を振りかえっていた。


――剣は当たったのに、なぜダメージがないのか


俺は考えを巡らせた。


聖剣の力は、もしかして、この程度なのか。


――いや、そうじゃない。何かが間違っている


生き埋めの子供を助けた光景をふと思い浮かべた。あの時の俺は、子供を救うという、はっきりした目的が目の前にあった。


その思いで剣を振ったら規格外のパワーが生まれたのだ。


つまり。


あくまで仮説だが、目的をはっきり意識しないと聖剣の力が引き出せないのでは…


もしそうならば、なんのために聖剣を振るうのか、そこを明確に考えねばならない。


俺は自分に問うてみた。


――ドラゴンを倒したいのか


もちろん、そうだ。倒したい。


では、それが目的なのか。


いや、そうではないはずだ。最終的なゴールは人を助けることだろう。


俺は色々な人を頭に思い描いた。民、役人、貴族…好きな人もいれば嫌いなヤツもいる。過去に色々あって恨んでるヤツもいなくはない。しかし、それもこれも含めて、全員まとめて、なにがあろうと助けること。それが俺にとっての目的。


――聖剣は、そのためなら力をきっと貸してくれるはず。パワーを発揮してくれるはず


甘いかもしれないが、そう信じて挑んでみよう。


「もう一回、ぎりぎりまで近づいて」


大鷲に声をかけた。


「んん……まあ、いいけどよ」


大鷲はちょっと消極的な素振りを見せる。


「今度は仕留めるから」

「そうか。じゃあ、行ったるか」


それまで上空を旋回していた大鷲は、態勢をととのえ降下しはじめた。俺は剣を構えてドラゴンをじっと見据えた。


頭に人々の姿が浮かんだ。助けるべき、数多くの名もなき人たちの顔。


ビュー


大鷲が加速した。


ドラゴンの炎を巧みにかわして胴体に接近した。


俺はゆっくり腰をしずめて、思いきり跳躍した。そのまま勢いよく宙を舞い、聖剣もろともドラゴンに直撃していった。


剣が胴体をとらえると、刃が突如、発光した。緑色に輝いた。光を帯びた剣先は、スーと滑るように肉塊を切り裂いた。その鋭利な感触がはっきり俺の腕まで伝わってきた。


「よし」


手応えを覚えた瞬間


「え?」


異様な光景が目の前にひろがった。


ドラゴンの巨体が爆発し、木っ端みじんに弾けとんだのだ。嘘だろ、と思ったが、間違いなかった。ドラゴンはたった一撃の威力で消滅し、その肉片だけがあちこちに飛び散っていた。


お…おっしゃ。!?


これで終わりと安心しかけた。しかし、まだ早かった。


内臓のなにかだと思うが、むくむくと膨張し、ボボンッと破裂した。直後に凄まじい爆風が巻き起こり、嵐かハリケーンのように俺を一瞬で飲みこんだ。


「げっ」


俺の体は、はるか彼方に吹き飛ばされそうになる。風圧のせいかは知らないが、頭を殴られた感じで、ぼーっと意識が遠のいていく。


ティナの悲鳴らしいキャーという叫びが耳に届いた。その悲鳴を聞きながら、俺は死ぬのかな、と思った。


大鷲が追いついてきた。服の襟のあたりを咥えて必死に助けようとしてくれる。なかなかうまくいかないが、やがて体が引っぱられる感触が伝わってきた。


どうやら生き延びることはできそうだ。


俺は薄れゆく意識のなか


「聖剣さぁ、ちょっとは手加減しろよな」


と呆れていた。

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