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第二十六話 アークスの声

 さすが騎士団長であるガイムの剣技は凄まじかった。ルクはどんどんと追い込まれていく。


「おい、ムントよ。手伝え!」


 ルクの叫びに、言われるまでもなくムントも参戦するが、二人掛かりでもガイムは互角以上の戦いを続けている。



 これが騎士団長と分団長の実力の差だった。

 徐々に押されているルクとムントは、このままではいずれやられると判断し、一旦ガイムとの間を取る。


「ちくしょう! ここまで強いとは」


「ムカつきますが、さすが騎士団長をしていただけのことはありますね」


 二人は苦しい表情をしながら、流れてもいない汗を拭いた。


 その時だった。



「何を不甲斐ない戦いをしているのだ? ルク、ムント」


 突然の声にルクとムントの顔が恐怖に引きつる。

 その声を聞いて、ガイムにも緊張が走った。

 忘れようもない声だったからだ。



「……アークス、お前もいるのか?」


「ガイム、久しいな」


 ガイムは激高して声を上げるが、反対にアークスの声は物静かだった。


「私はそこにはいない。声を飛ばしているだけだ」


 おそらくはマジックアイテムでも使って、この光景を見ているのだろう。


「それでは、さっさとニ人を倒して、お前の元へ急ごうとしよう」


 ガイムは二人に剣を向けた。



「来るなら構わない。だが魔法使い(ウィザード)ひとりを味方につけたぐらいでは、王城には辿り着けないことは分かるだろう?」


「それはどうかな。少なくともルクやムントよりは、はるかに強いぞ」


「それは楽しみだ。では私はこれで失礼しよう。ルク、ムントよ、期待しているぞ」


 最後にアークスは二人に静かに声をかけて消えた。

 その声は恫喝でも威嚇でもない、しかし二人にとっては充分過ぎる重圧だった。

 アークスの期待に応じられなかった場合、どうなるのかよく分かっているからだ。



「アークス様、見ていてください。必ずガイムを倒します!」


 ルクとムントは死に物狂いでガイムに襲いかかった。

 恐怖で追い詰められている二人は、なりふり構わず剣を振るう。すると、ガイムもなかなか攻撃に転じることができない。

 しかし、歴戦の戦士であるガイムは、二人の攻撃がずっと続かないことを知っていた。

 しばらくすると、ガイムは隙をついてルクとムントの胸元を剣で突く。二人は体勢を崩して倒れかけるが、その間にガイムは二人から離れて距離を取った。戦いを立て直すためだ。



 そんな光景をずっと見ていたカリンはヤキモキしていたが、彼女の場所からは何もできない。見守り続けるしかないのだ。


「ガイムさん、頑張って!」


 カリンの必死の声援に気付いたガイムは少しだけ笑った。


「ありがとうございます。次で勝負を決めます」


 ガイムは腰を深く降ろすと、重心を下に向けた。地面を思いっきり蹴り上げて、その勢いで攻撃を仕掛けるつもりだった。


 次の一撃で決める。

 ガイムは全身全霊を両脚に集中する。


 しかし、突然ガイムの背中を激痛が襲った。


 思わず片膝をついたガイムは、後ろを振り向いて唖然とする。


「……お前たち!」


 現れたのは、ルクたちと一緒に裏切った魔法使い(ウィザード)のゴーストの二人だった。彼らが、ガイムの無防備の背中に魔法を放ったのだ。


 そして、ルクとムントはその隙を見逃さなかった。

 背後を振り向いていたガイムを上から下へ一直線に斬りつける。


「ぐぁ!」


 ガイムはその場に倒れ込んだ。



「卑怯者―!」


 カリンが叫ぶが、ルクは残忍な笑みを浮かべる。


「卑怯でも何でも勝てばいいんだよ」


 ルクは倒れているガイムを蹴飛ばした。


「これでアークス様も安心だろう」


「何が安心だ。俺たちが助けに来なければ、やられていたのはお前たちだ」


 魔法使い(ウィザード)の一人が嫌味を言うが、彼らもまたアークスからの命令で後から駆けつけたのだった。


「アークス様には感謝しているさ。正義感を振りまいていた虫唾の走る騎士団長を倒すことができたのだからな」


「騎士団長、これでさよならです。地獄で待っている団員たちによろしく伝えてください」


 そう言うとムントは倒れているガイムの背中に魔法の剣(マジック・ソード)を何度も突き刺した。


「やめてー!」


 あまりにも無慈悲で残酷な行為にカリンは目を閉じた。これ以上見ていられなかったからだ。

 それでも、ムントは剣を刺し続ける。


 ガイムの身体は今にも消えそうだ。



「このくらいで充分だろう。最後まで見届ける必要もないな。戻るとするか」


 裏切り者の四人は笑いながら、通路の反対方向に消えていった。



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