第二十二話 仲間たちとの約束 &(登場人物紹介)
ガイムの話が終わった頃、すでに夜も更けてきていた。
この村にアンデッドがいない理由……それは昔、ガイムたちが滅ぼした村のひとつだったのだ。
「長い話になってしまいました」
ガイムが頭を下げた。
指輪の映像はガイムの意志で、好きなところだけを見せることができる。そこで、大事な場面だけを二人に見せたのだが、それでも数時間が掛かってしまった。
「夜も遅くなり、お二人とも疲れたことで……」
「ガイムさーん!」
ガイムが話し終わる前に、泣きじゃくった顔のカリンがガイムに抱きついてきた。
泣いている理由は明白だ。
大切な仲間を殺され、それでもエミリア女王を助け出すために、ガイムはたったひとりで百年もの長い間戦ってきたのだ。
「ずっとひとりで辛かったですよね。寂しかったですよね」
ヒック、ヒックと泣きながら、ガイムを見上げる。
そんなガイムは少し困った表情をしていた。
「カリンさん、ありがとうございます。しかし、先ほども言いましたが、部下のスケルトンたちは話すことはできませんが、一緒に行動してきた仲間です。ひとりではないので大丈夫ですよ」
「それでも百年もの間、ずっと頑張ってきたガイムさんは凄いです」
カリンは励ますつもりだったのだが、逆にガイムは肩を落とした。
「私は何も頑張ってはいません。百年もの間、私はアークスを倒すどころか、アークスから逃げ回っていただけなのです」
ガイムの声が沈んだ。
「結局、私はレアスたちとの約束を果たすことができない愚か者なのです」
命懸けで助けてくれたレアスたちに、今の自分はあの世で合わせる顔がないとガイムは思っていた。
「絶対にそんなことないですよ! 私がレアスさんだったら、絶対にガイムさんのことを愚か者なんて思いませんよ!」
「ははは、ありがとうございます」
ガイムは困った表情で笑った。
そう、ガイムも分かっているのだ。レアスたちがガイムを責めたりしないことは。
しかし、だからこそガイムは自分自身の不甲斐なさが許せないのだ。
「大丈夫です。ガイムさんは……」
「カリン!」
さらに言葉を続けようとしたカリンをシャスターが静かに戒める。
「それ以上の慰めは、ガイムの気持ちを否定することになる。良いか悪いかは、他人が判断するものじゃない。自分自身で決めるものだ」
「!!」
カリンはハッとした。
シャスターに指摘されて初めて、自分が失礼なことをしていたことに気付いたからだ。
「ガイムさん、ごめんなさい」
しょんぼりしたカリンが謝る。
「良いのです。カリンさんは私を気遣ってくれたのですから。お優しい方なのですね」
今度こそ、ガイムは笑った。
そんな二人を見ながらシャスターも微笑んだが、心の中ではガイムのことについて考えていた。
よほど強靭な精神力がなければ、百年もの間ひとりで戦い続けるなど到底無理だ。ゴーストといえども普通なら発狂して消滅してしまうだろう。
それなのにガイムは平静さを保ちながら行動している。
それだけ心の奥底では、レアスたちとの約束を果たす気持ちが強いということだ。ゴーストは想いが強ければ強いほど、この世に長く留まる。
しかし、逆にレアスたちとの約束を果たしてしまったらどうなるのか。
あるいは別のことも考えられるが。
(まぁ、今はまだ先のことを考えるのはよしておこう)
シャスターはまだ笑い合っている二人を見て、複雑な表情になった。
「夜遅くになってしまいましたが、明日は秘密の砦ランゲンに向かいます。今夜もゆっくりとお休みください」
それだけ言うと、ガイムは宿屋から出て行った。
今夜も警備をしてくれるのだろう。
ガイムに感謝し、二人はすぐに寝ることにした。
第二章
これまでの主要な登場人物
シャスター
伝説の魔法学院、火炎系魔法の最高峰であるイオ魔法学院の後継者。
魂眠に陥ってしまったフローレを治す方法を探すため、カリンと一緒に「死者の森」に赴いた。
現在、ゴーストのガイムと共に旧シュトラ王国の王都に向かっている。
カリン
神聖魔法の使い手であり、簡単な神聖魔法を使うことができる。
魂眠に陥ったフローレを治す方法を探す為、シャスターと共に旅に出た。
「死者の森」で出会ったゴーストのガイムとは仲が良い。
星華
シャスターの守護者。
稀有な職業「忍者」、その中でも上忍しか名乗ることが許されない「くノ一」の称号を持つ。
日頃はシャスターの影の中に潜んでいる。
無口で沈着冷静、そしてシャスターに絶対的忠誠を誓っている少女。
「死者の森」では、シャスターたちと別行動をして探索をしている。
ガイム
「死者の森」に以前あったシュトラ王国の騎士団長。
百年前、神官長アークスが反逆を起こし、エミリナ女王を監禁したが、その時アークスが王国全土にばら撒いた「アンデッドになる薬」により、ゴーストになってしまった。
百年もの間、エミリナ女王を助けるべく模索していたが、シャスターと共に女王を助けるべく王都へ向かう。
アークス
シュトラ王国神官長。若くして神官長になった天才。
百年前、単独で反乱を起こしてエミリナ女王を監禁し、王国全土をアンデッドの徘徊する死者の国へと変貌させた張本人。
●過去編
レアス
シュトラ王国騎士団の副騎士団長。ガイムの腹心。
百年前ゴーストとなり、ガイムと共に行動するが、部下だったルク、ムントたちの裏切りにあい消滅。
ナバス
シュトラ王国の宮廷魔術師。
百年前ゴーストとなり、ガイムと共に行動するが、部下の裏切りにあい消滅。
ルク、ムント
シュトラ王国騎士団の分団長。
百年前ゴーストとなり、ガイムと共に行動していたが、ガイムのやり方に反論し、ナバスの弟子の魔法使い二人と共に四人で離反。
その後アークスの部下となり、卑劣な奇襲でガイム以外のゴーストたちを消滅させた。




