第二十話 レアスの記録 6(シュトラ王国過去編7)
それから一ヶ月の間で、ガイムたちは二十ほどの村や町に出向いた。
残念ながら、どこにもゴーストになった者はいなく、代わりにスケルトンになった人々たちや、スケルトンと同様に自我のないゾンビになった人々たちを倒す毎日が続いていた。
ガイムたちの疲労は増すばかりであった。
体力的な疲労ではなく、精神的な疲労が蓄積されていく。
アンデッドとはいえ、国民たちを倒すのにはかなり心の葛藤があるからだ。
しかも、ゾンビなどは生前の姿を残している者も多い。剣で斬りつけると、人間のように苦しむゾンビを見るたびに心が痛んだ。
斬り倒した後はしばらく動けなくなるほど、彼らの精神的な疲労は凄まじかった。
来る日も来る日もアンデッドを倒す日々が続き、急速に精神が擦り減る中、遂に限界を超える者が出てきた。
「俺はもうやめますよ」
分団長のルクが剣を投げ捨てた。
「俺も自由にさせてもらいます」
さらに分団長のムントも同調した。
「二人ともどうした?」
慌てた副騎士団長のレアスが理由を尋ねるが、二人ともレアスに食ってかかる。
「どうもこうも、俺たちはこんなことをするために、ここにいるわけじゃない!」
「そうだ! 死から蘇ってゴーストになって、やることといったらアンデッド退治。そんなことは生きている人間にやらせればいいんだ」
「お前たちはシュトラの民を救いたいとは思わないのか?」
レアスも反論するが、ルクは鼻で笑った。
「ゴーストになれなかった弱い者など救う必要はありませんよ。このまま一生彷徨っていればいいんだ」
「貴様!」
「やめろ、レアス!」
殴りかかろうとしたレアスをガイムが止める。
「死んでゴーストになった時点で、我々は侍従関係ではない。ルク、ムント、二人とも好きにするがいい」
「ガイム騎士団長、しかし、それでは……」
「よいのだ、レアス」
レアスの言葉を遮って、ガイムは皆に話し掛ける。
「他にも抜けたい者がいれば、申し出て欲しい」
すると、宮廷魔術師ナバスの弟子の魔法使い二人も出ていく意思を示した。
それをナバスも了承し、その夜九人いたゴーストの内、四人が出て行った。
残った者は、騎士団長ガイムと副騎士団長レアス、分団長フート、宮廷魔術師ナバスとその弟子リアンの五人だ。
「これではアークスを倒すことが、さらに困難になってしまいます」
レアスの意見はもっともだった。ゴーストになった者を探しているのに、逆に半減してしまったのだ。アークスを倒すどころではない。
しかし、ガイムは気にしていなかった。
「仲間同士で軋轢が生じるよりもマシだ」
不協和音のままでいるよりも、少数でも意思統一できる方が良いとガイムは思っていた。
「まぁ、たしかにルクとムントは分団長の中でも素行に問題がある二人でしたから」
二人はまだ分団長に昇格したばかりだった。しかし、その直後から部下への暴行や賄賂等々の疑惑が浮上し、ガイムの名の下で近々分団長を降格させる予定だったのだ。
実力はあってもそれだけでは分団長は務まらないのだ。
「お互い、出来の悪い部下を持つと苦労しますな」
ナバスが苦い表情をする。彼にとって造反した二人の弟子もガイムと似たようなものだったのだろう。
「見抜けなかった私に責任はあります。ただ、いつかルクもムントも分かってくれて、我々のもとに再び戻ってきてくれると信じています」
「そうなると良いですな」
ガイムたちは淡い希望を持って、次の場所に向けて出発した。




