第十六話 レアスの記録 3(シュトラ王国過去編3)
吐き気を覚えながら目覚めた時、レアスは今までの人生の中で一番驚いた。
目の前に自分自身の死体が転がっているからだ。
「どうなっている!?」
透き通る自分の両手を見つめてレアスは唸った。
それとともに冷静な思考が働き、レアスは状況を把握していく。
「私は死んでアンデッド……ゴーストになったのか」
驚きながらも状況を理解したレアスだったが、彼の周りに倒れている騎士たちを見て心が痛んだ。
「ゴーストは私だけなのか?」
レアス以外は皆死んだままだ。彼のようにゴーストになっている者はいない。
レアスは司令部を置いたテントから外に出てみた。
そこにも異様な光景が広がっていた。
あちらこちらに多くの死体が倒れているからだ。
道に倒れているのは、ほとんど騎士たちだった。巡回時に死んでしまったのだろう。
そして家々の扉近くには、住民が死んでいる光景が見受けられた。家から出ようとして事切れたに違いない。
あまりにも悲惨な状況にレアスは茫然としたが、いつまでもここに留まっていても仕方がない。
自身の死体が着ている甲冑を外し、幽体の身体に身に着けた。幽体の身体は意識することによって、物質を感じることができるようだ。剣も握ることができる。
それからレアスは街中を歩き回り、生存者を探し始めた。
しかし、どこも騎士たちの死体で埋め尽くされていて、家々の扉を開けても中は死体だけで生存者はいない。
長い時間、生存者を探し続けたレアスだったが、夜が明け始めると探すのを諦めた。
「もしかしたら、王都中の人間が死んでしまったのかもしれないな……」
どこを探しても生存者はいない。
ゴーストになっている者もいない。
「ガイム騎士団長が失敗した? まさか……しかし、それしか考えられない」
レアスは自問自答したが、この状況を見ればそう考えるのが当然だった。
王都の人々が死に絶える。この異常事態の原因は、王宮で起きた事件と関連していることは間違いない。
それが何かは分からない。しかし、アークスが何かとてつもないことをしたのだろうとは推測がつく。
つまり、それはガイムたちが失敗したということだ。
レアスは、一旦騎士団の本部に戻ることにした。
騎士団本部の建物は、王都エアトの中央南門の横に建っていて、ここからならそれほど遠くない。
それに、騎士団本部には多くの強者たちが待機していたはずだ。もしかしたら、生存者がいるかもしれない。
一途の望みを賭けて、レアスは騎士団本部に到着した。
すぐに騎士団本部の建物内を全て調べる。
しかし、やはり誰一人として生存者はいなかった。皆、死体となって横たわっている。
「やはり、ここも駄目だったか……」
一気に疲労感に襲われたレアスは、大広間の椅子に倒れ込んだ。
いくら冷静沈着なレアスでも、この異常な状況は理解できないし、把握することなど尚更無理だ。
ただ、それでも、レアスは騎士団長代行として、今後の対応策を考えなければならない。
「さて、どうしたものか……」
レアスは立ちあがろうとして、目の前に視線を戻した。
それと同時に、彼は驚愕する。
そこに懐かしい顔が現れたからだ。
「フート、ルク、ムント! お前たち、無事だったのか!」
「無事というには語弊がありますよ。我々も死んでゴーストになってしまったのですから」
フートが苦笑したが、レアスはそんなことはどうでもよかった。仲間がいたことが嬉しかったのだ。
「ゴーストだろうが、構わない。お前たちがいることが嬉しいのだ!」
「我々もレアス副騎士団長にお会いできて、ホッとしました。王都中が死に絶えている異常事態、いったい何が起きているのか……」
再会を喜び合いながらも、四人は椅子に座ると情報を交換しあった。
しかし、三人の情報はレアスと大差ないものだった。
分団長としてそれぞれ騎士を預かっていた三人は、レアス同様に王都エアトの警護に当たっていた。
ルクは王都の北西地区、ムントは南東地区、そしてフートは王宮と隣接している北地区を受け持っていた。
そして、例の災害が起きた。
そこから先はレアスと同じだった。
ゴーストになったことに驚きながらも、生存者を探し続け、騎士団本部にたどり着いたのだった。
「私はここから一番離れていたので、騎士団本部に来る途中で他の地区も回って来たのですが、残念ながら他の三人の分団長は死んでいました。鎧も着けたままだったので、ゴーストにもなっていないと思います」
「そうか……フートよ、調べてくれて悪かったな」
レアスは他の三人もゴーストになっていると期待していたのだが、そこまで望むことは無理だった。
気持ちを変えてレアスはフートに質問をする。
「フート、お前が一番王宮の近くにいたが、何か変わったことはなかったのか?」
「そういえば、突然王宮から強風が吹いてきたのです。王宮から強風とは変だと思ったのと同時に死んでしまいました。今思えば、あの風が怪しいですね」
「ふむ、王宮からの強風か」
「そこから先は俺が話そう」
突然の声にレアスたち四人は驚いた。
そこにガイムが立っていたからだ。




