第十五話 レアスの記録 2 (シュトラ王国過去編2)
時刻は午後九時をまわった。
中央広場にそびえ立つ時計台が、ゴーンと鈍い鐘を鳴らす。
「開始だな」
ガイムたちの作戦が開始される時刻だ。
王都中央を警備するレアスは時計台を見ながら、独り言を呟いた。
それからしばらくの間、何事もなく時間だけが経過していった。
八千人の騎士たちは七区間に分けられた王都を五人一組になって路地裏まで巡回している。
その最中、それは突然起こった。
暗く静まり返っていた家々から、急に呻き声や叫び声が聞こえてきたのだ。
驚いた巡回中の騎士たちは家々の扉を開ける。するとそこには家の住人たちが、悶え苦しんでいる光景が広がっていた。
「大丈夫か?」
大声で叫ぶ騎士たちだが、彼らもまた口から血を吐きながら倒れ込んだ。
異常事態の始まりだった。
同様のことが王都エアト中で起きていた。
あちらこちらで苦しみからの呻き声と叫び声が、まるで大合唱のように王都に響き渡る。
「どうしたというのだ!?」
レアスが叫ぶが、答えられる者は誰もいない。
その間にも次から次へと、周りの騎士たちが苦しみながら倒れていく。
敵と対峙すれば恐れることなく戦うレアスだったが、目に見えない敵と戦うことはできない。
何が起きているのか全く分からないのだ。
「取り敢えず、ここを放棄して騎士団本部に戻……」
指示を出しながらレアスは口から血を吐くと、そのまま倒れて動かなくなってしまった。
「レアス副騎士団長!」
近くにいた騎士たちがレアスに近寄るが、彼らもまた倒れていく。
苦しみは声は王都中から響き渡っていたが、時が経つにつれ、それらの声は徐々に小さくなっていった。
更に時間が経つと、声は全く聞こえなくなった。
王都エアトの住民が、全て死に絶えた瞬間だった。




