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第十三話 誰もいない村

 砦を出立して半日以上が経った。


 深い森の中でも僅かな日差しで、太陽が沈みかけていることが分かる。



「この先に小さな村があります。そこで今夜は休みましょう」


「でも、アンデッドになった村人がいるんじゃ?」


「大丈夫です。その村にはいません」


 カリンの質問にガイムは軽く頭を振った。

 すでに、その村を調べさせていたということなのだろう。


「村があるのに、アンデッドがいないの?」


「そのとおりです。あ、村が見えてきました」


 ガイムが指差す方向に村が見えてきた。

 いや、正確には村だった廃墟だ。村は巨大な樹木で覆い尽くされている。



 スケルトンたちを村の外で警備させて、三人は村の建物の一つに入り休憩をとった。

 ガイムには休息はあまり必要ないのだが、情報提供の役目もあるので、二人と一緒に椅子に座った。


「以前には、この村にもアンデッドはいたのです」


 それではアンデッド達はどこへ行ったのだろう、カリンは不思議に思う。


「百年前に私たちが殺しました」


「……殺した?」


「殺したとは正しくはないですね。すでに死んでアンデッドになったわけですから。滅したと言うべきでしょうか」


 いやいや問題はそこじゃない。殺した理由だ、と突っ込もうとしたカリンだったが、ガイムの表情を見て言葉を飲み込んだ。


 その表情は悲痛そのものだったからだ。

 後悔しているのが明白だった。



「ガイム、一ついいかな?」


 絶妙なタイミングでシャスターが言葉をつなげた。


「何でしょうか?」


 表情を元に戻してガイムが明るく努めているが、それを知ってか知らずかシャスターは鋭い質問する。


「ここの村人たちを滅したのはガイムひとりで?」


「シャスター!」


 カリンが非難めいた声を上げる。絶妙なタイミングでの質問だったが、尋ねた内容が最悪だったからだ。

 後悔して悔やんでいるガイムの傷口に塩を塗るような行為だ。

 しかし、カリンを無視してシャスターは話しを続ける。



「この村のアンデッドを私たち(﹅﹅﹅)が殺したって言ったけど、私たちって誰のこと?」


「そんなの、外にいるスケルトンの騎士さんたちに決まっているじゃないの」


 ガイムの代わりにカリンが答えるが、シャスターは納得した表情をしていない。


「でも、スケルトンの騎士たち出会ったのは五十年前だ」


「それがなによ」


「ガイムは『百年前に私たちが殺しました』と言ったから」


「……あっ!」


 そこで、カリンもようやく気付いた。


「そう、百年前にはスケルトンの騎士たちとは、まだ出会っていなかった。それなのに『私』ではなく『私たち』って使ったのは何故かなと思ってさ」


 確かに言われてみれば、シャスターの言うとおりだ。


 カリンも再びガイムに視線を向ける。




「お二人には話さなくてはならないと思っていました。私には思い出したくもない過去の話ですが、良い機会です」


 ガイムは腰の袋から指輪を取り出した。

 薄い光沢がある指輪で、真ん中に小さな黒い石がはめ込んである。


「この指輪は付けた人物の周囲を自動で録画するマジックアイテムです。ただ、一度再生をすると二度と映像は見ることができません。使い捨てのマジックアイテムです」


 しかし、それでも高価であることは間違いない。


「そして、この指輪にはどのようにしてシュトラ王国が、死者の国へ変貌したのかが録画されています。これからお見せしましょう」


「え!? でも、ガイムさん、それってここで映像を見てしまったら、もう二度と見れなくなるんじゃ……」


「いいのですよ。お二人には見ていただきたいと思っていましたから。それに、もう他に見せる人もいませんし」


 少し寂しそうに微笑んだガイムは指輪をテーブルに置くと、黒い石の部分を壁に向けから強く押した。

 すると石から光が発せられ、目の前の壁一面に見たことがない景色が映し出された。



 百年前のシュトラ王国だった。




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