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第十二話 頼もしい部下たち

 翌朝、薄暗い陽の光で目覚めたシャスターは大部屋に移動する。


 カリンはすでに起きていて、昨夜シャスターが魔法の鞄(マジック・バッグ)から出して用意しておいた食材を使って、簡単な朝食を作っていた。


「おはよう」


「おはよう。ちょうど朝食ができたところ」


 テーブルの上にはスモークされた肉や魚を挟んだパン、それに数種類のドライフルーツを入れたヨーグルトが並んでいた。昨夜の夕食とほぼ同じだが仕方がない。


 そして、二人が朝食を食べ終わった頃、ガイムが現れた。



「おはようございます」


「ガイムさん、おはよう」


「おはよう、ガイム」


 挨拶を済ませると、三人はすぐに出立した。



「昨夜、部下たちに命じて周辺を調べさせたのですが、特に追手らしい者はいないとのことでした」


「アークスは諦めたのかしら?」


「それはまだ分かりませんが、今日も慎重に進んで行きましょう」


 三人よりも先に、二人のスケルトンの騎士が先行して進んでいる。残りのスケルトンたちは三人の背後を注意しながら一緒に進んでいた。



「ところで、ガイムさん」


「何でしょう?」


「スケルトンさんたちって、自我はあるの?」


 カリンとしては、スケルトンの騎士たちを見ていて不思議に思ったのだ。

 シャスターには、スケルトンには自我はないと言われたが、ガイムとスケルトンたちは意志の疎通が出来ているように見えるのだ。現に、ガイム自身が昨夜スケルトンに周辺調査を命じたと言ったではないか。


 そんなカリンの疑問にガイムは丁寧に答えた。


「自我があるかないかと言えば、ないのだと思います。彼らは私の命令以外で行動することは出来ないからです」


「でも、なぜ命令ができるのですか?」


「生前、彼らは私の最も忠実な部下たちでした。おそらくは、その影響なのでしょう。スケルトンになった今でも、私の命令に従ってくれるのです」



 スケルトンたちとは五十年ほど前に、王国の南方にある砦で出会ったとのことだった。

 ゴーストになったガイムにはスケルトンたちの生前の姿も分かる。

 砦の周りを彷徨っていた彼らの姿を見つけてガイムは駆け寄った。すると、自我のないスケルトンたちもガイムのことが本能的に分かったらしく、その場ですぐに恭順したのだった。


「お互いに信頼し合っていたからこそ、ですね」


「彼らには自我がないと言いましたが、部下だった時の名残でしょうか、命令した任務の報告をしてくれます。テレパシーのような、それも何とか分かる程度のカタコトの言葉ですが、彼らは報告をしてくれます。まぁ、長年付き合っているから、分かるのでしょう」


 ガイムは笑いながら、後ろからついてくるスケルトンたちを見た。心なしかスケルトンたちもガイムを見つめているように見える。


 アンデッドになった後でもガイムとスケルトンの騎士たちは熱い信頼関係で結ばれているのだろうとカリンは確信した。


 ただ、そうなると他の疑問も出てくる。



「それじゃ、ガイムさんの他の仲間はどこにいるのですか?」


 王国が滅んでからガイムと共に過ごしてきた仲間はどこにいるのだろうと、カリンは気になった。

 何処か秘密の場所で、女王を助けるべき作戦でも練っているのだろうか。


 そんなカリンの疑問に、ガイムは頭を横に振った。


「他には誰もいませんよ」


「えっ!?」


「私の仲間はここにいる彼らだけです」


「それじゃ、ガイムさんが話せる人は……」


「ははは。そんなアンデッドはいませんよ。自我がある者でエミリナ女王を助けようとしているのは私だけですし。そもそも、こうやって誰かと話すのも久しぶりですからね」


 陽気に笑うガイムだが、逆にカリンは悲しい気持ちになる。


「百年もの間、ずっとひとり孤立無援で頑張ってきたのですね」


「少なくとも後半の五十年間は孤立ではなかったですよ。私には頼もしい部下たちがいますから」


 まさにガイムは忠義の家臣だった。

 主君のために百年もの間、戦い続けているのだ。


「ただ……やはり、こうやってカリンさんたちと話せるのはとても楽しいですね」


「ガイムさん……」


 目柱が熱くなってきたカリンは、敢えて明るく振る舞った。


「よーし、それじゃ今日は目的地に着くまで、お喋り尽くしましょう。百年分を埋めるくらいに!」


「ははは。ありがとうございます」



 こうして、カリンとガイムの二人はずっと喋りながら進む。


 その光景を後ろからシャスターは微笑みながら見ていた。



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