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第十一話 夜の砦で  &(MAP)

「それでは日が暮れるまで、もう少し進みましょう。かなり進んだので大丈夫だとは思いますが、念には念を入れておきましょう」


 ガイムが馬に乗るとスケルトンの騎士たちも順次馬に乗った。

 その後からシャスターとカリンも馬に乗ったのを確認するとガイムは先頭を切って走り始めた。



「そういえば、さっきからガイムさんは何から逃げているの?」


 廃墟の町でガイムと出会った時もすぐにその場から逃げ出したし、今も走りやすい街道ではなく小道を進んでいる。

 カリンはガイムが何か追手にでも追われているのかと思っていた。



「アークスから俺たちを隠してくれているのさ」


 答えたのはシャスターだった。ガイムはシャスターの推察力に驚く。


「その通りです。よくお分かりになりましたね」


「状況を分析すると、そうかなって」


「あのー、私だけ理解できていないのですけど?」


 少しふてくされた表情のカリンが尋ねる。

 彼女としては自分が普通であって、シャスターの推察力が高過ぎるのだ。


「これは失礼しました。順を追って話していきましょう」


 廃墟の町でシャスターが火炎の嵐(ファイア・ストーム)を放った時、その魔力の大きさに気付いたガイムは急いで二人の元に来たのだが、その時アークスもシャスターの魔力に当然気付いたはずなのだ。


「ゴーストとはいえ、魔力のない騎士である私でさえ気付いたのです。シュトラ王国で最大の信力を持っていたアークスが気付かぬはずがありません。たまたま私があの町の近くにいた為、先にお二人に会うことができたのです」


 二百ものアンデッドを一瞬で倒す魔法使い(ウィザード)など、アークスにとっては敵以外何者でもない。すぐに強力な追手を差し向けて来るはずだ。

 そう判断したガイムは急いで二人と一緒に逃げたのだった。



「ということは、一歩間違えれば、私たちは今頃アークスに襲われていたかもしれなかったと?」


「そうなりますね」


 先にガイムと会えたのは幸運だった。

 ほっと胸を撫で下ろしたカリンだったが、良いことばかりではない。


「しかし、アークスは俺たちの存在を知ってしまった。エミリナ女王を助けるにしても、向こうは今まで以上に警戒してくることは間違いない」


「そのとおりです。先ほども話しましたが、エミリナ女王は王都エアトに監禁されています。アークスは王都までの道のりに多くのアンデッドを配置してくるでしょう」


 つまり、王都エアトに近づけば近づく程、危険に遭遇する確率が高くなるということだ。


「せっかく目立たないように行動をしていたのに、誰かさんのせいで」


「……ごめんなさい」


 自分のミスで、仕方なくシャスターが魔法を使うはめになってしまったのだ。

 カリンは自己嫌悪になる。

 しかし、シャスターはカリンをからかうために嫌味を言っただけで、本気で文句をいっているわけではない。


「でも、あのまま隠れながら森を移動していたら、何も進展はなかったよ。魔法を使ったからこそ、ガイムに会えてシュトラ王国滅亡の真相を聞くことができたのだから。カリンがミスしてくれたおかげだよ」


「……ありがとう」


 こいつ、やっぱりいじめっ子気質だな、と思ったカリンだったが自分が悪いことは事実だ。これ以上この話で引っ張られないようにカリンは話を変える。



「ガイムさんは、いつもどこにいるのですか?」


「決まった場所はありません。森の中にいくつもの拠点を持っていて、そこを移動しながら過ごしています。その拠点の一つが見えてきました、あそこです」


 ガイムが指差した先には小さな砦が見えた。二階建ての数人の兵士の詰所という感じだ。


「大きな建物だとアークスに見つかる可能性があるので。しかし、中はけっこう広いですよ。今夜はここで休みましょう」


 三人は馬を外に出て止めると建物の中に入った。

 スケルトンの騎士たちは建物の周りで警備をしている。



 ガイムが部屋にランプを灯しテーブルに大きな地図を広げた。どうやらシュトラ王国の地図のようだ。

 地図には多くの町や村、そして道が記されているが、残念ながら森になってしまった今となってはあまり役に立ちそうもない。


 ただ、シュトラ王国の真ん中を南北に分けるかのように東西に延びた街道だけは今も残っていた。

 シャスターとカリンはレーシング王国からこの街道を使って入ってきたのだ。

 地図では街道のちょうど中心に王都エアトが記されている。


「我々がいるのはこの辺りです」


 ガイムが指差した先は、レーシング王国側と王都エアトを繋ぐ街道を三等分した最初の地点を南下した場所だった。


「明日もこのまま街道と並行して南側を走る予定です。整備されていない小道なので、今日同様に時間はかかりますが、アークスに見つかるよりは良いでしょう」


 街道にはアークスの手下たちが巡回しているはずだ。王都エアトまでは気付かれずに行きたい。


「そして、明後日にはこの場所に着きたいと思います」


 ガイムが指差した場所は王都エアトのすぐ南の地点だった。


「今では森に覆われていますが、ここに騎士団の拠点があります。ここからなら王都は目と鼻の先です」


 つまり、王都に入るのは明後日以降だ。その王都に入るのが一番難しいはずだが、ガイムには何か考えがあるらしい。

 拠点に着いたら作戦を説明するとのことなので、シャスターもそれ以上は尋ねなかった。



「それでは、私も周りを巡回してきますので、お二人は夕食でも」


「ガイムさんも夕食を一緒にどうですか?」


「ははは。私はゴーストなので食べる必要がないのですよ」


「そうなの!? ごめんなさい、知らなくて……」


 カリンは失礼なことを聞いてしまったと謝るが、ガイムは全く気にしていないようだった。


「夕食を食べ終わったら隣に寝室があります。色々なことがあって今日は疲れたことでしょう。ゆっくりとお休みください」


 アンデッドたちは少しの睡眠で大丈夫らしい。ガイムとスケルトンの騎士たちは交代しながら、周りを見張ってくれるとのことだった。

 とても恐縮するが、相手の感謝の気持ちを断る訳にもいかない。


「ガイムさん、ありがとう!」


「何の、こちらこそ助けてもらうのですから。遠慮せずにこの建物を自由に使ってください」


 頭を下げると、ガイムは扉の外に出て行った。



「何だか、申し訳ない気がするね」


「まぁ、ガイムの好意に甘えるとしよう。俺たちは生身なのだから、腹も減るし睡眠も必要だからね」


 シャスターは空中に弧を描くと魔法の鞄(マジック・バッグ)から食べ物を取り出す。

 レーシング王国を出立する前にラウスが用意してくれたものだ。

 グラスを二つ取りだし冷たい水を注いだ後、スモークされた肉とチーズをパンで挟むとカリンに手渡した。


「厨房はあるみたいだけど、火は使わない方がいいだろう」


 火を使って煙が上ったら、それこそ見つかってしまう。


「そうだね」


 カリンはパンを頬張ると一気に食べてしまった。

 よくよく考えたら、今日はベルの町で朝食を食べたきり、何も食べていない。お腹が空いていて当然だ。


 お腹一杯食べた二人は、満足げに窓の外を眺めた。

 深い森の中なので夜空はほとんど見えないが、少しだけ月の光が差し込んでいた。



「ねぇ、シャスター」


「ん、なに?」


「アークスがフローレ姉さんを元に戻す方法を知っていたとして、どうやってここから連れ出すの?」


 カリンの疑問は当然だった。

 アークスは敵だ。その敵に聞いたところで、素直に教えてくれるはずがない。しかも、レーシング王国まで連れ出すとなると、さらに困難だろう。


「具体的な方法はない、というか今考えても意味がないさ」



 まだアークスがどういう人物なのか、掴み切れていないからだ。

 ガイムの話では、権力欲しさに女王を監禁し国民をアンデッドにしてしまった極悪非道の人物なのだが、果たして本当にそれだけなのか。


 そもそも権力が欲しかったのなら、現状のままで良かったはずなのだ。

 アークスは家臣の中でも最も実力を持っていた。であれば、女王の下で自由に権力を振るっているのが一番ラクなはずだ。


 それなのに敢えて女王を監禁する、しかも自分が王座に就くのではなく、議会制を導入しようとしていた。

 そもそも国民を全てアンデッドに変えてまで、王国を滅ぼす理由が分からない。王国が滅べば、権力など何の意味もないからだ。


 つまり、アークスは権力を望むこととは明らかに矛盾していることを行っているのだ。

 そして、ここから導き出せる答えは一つ。



「アークスは権力以外の、何か別なモノを欲していた」ということになる。


 その答えはガイムの考えとは全く異なるのだ。




「アークスは何をしたかったのだろう」


「今考えても意味がない」と言いながらも、考えを巡らしているシャスターを見て、カリンは申し訳なさそうに微笑んだ。


「変な質問をした私が悪かったわ。情報もあまりないのに考えさせちゃって、ごめんね。今は考えるより疲れた身体を休ませることの方が大切。明日も早いからもう寝ましょ」


 カリンならでは気遣いだった。それが分かったシャスターも素直に同意する。



「そうだな。寝るとするか」


 二人は寝室に移動すると、すぐに眠りについた。





♦♢♦♢♦♢♦ 死者の森 MAP ♦♢♦♢♦♢♦


挿絵(By みてみん)

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