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第九話 百年前の真実

 百年前、シュトラ王国は平和そのものだった。


 両隣のレーシング王国、アイヤール王国とは長い間友好関係が続いており、国内でも内乱などもなく、国民が安心して豊かに暮らせる国だった。



 ただ、強いてあげるとすれば、即位したての国王が若かったことだ。

 若い国王はエミリナという名の少女だった。

 父であった前国王が急な病で亡くなり、跡を継いだのだ。

 母である王妃は父と結婚してすぐにエミリナを産んだが、その後しばらくして亡くなった。それから父は新しい王妃も妾も取らなかったので、唯一直系の王位後継者がエミリナだったのだ。


 エミリナは十八歳の若さでシュトラ王国の女王となった。


 ただ、少女の国王だとしても、シュトラ王国にとっては大した問題ではなかった。

 過去を遡れば、女性の国王も何人もいたし、若くして即位した国王も多かったからだ。

 家臣たちがエミリナ女王をしっかりと支えて国政を行なっていけば、今後もますますシュトラ王国は繁栄していく、誰もがそう思っていた。




 それから二年が平和に過ぎ去り、エミリナ女王が二十歳になった時、家臣たちが女王に提言をした。


 そろそろご結婚をしてお世継ぎをおつくりしませんかと。


 通常、王族には自由な結婚などない。

 まして一国の王だ、エミリナは家臣たちの提言を受け入れた。

 女王であるエミリナの夫となる人物は、王族より格下の身分の者からは選定されない。それがいかにシュトラ王国の大貴族であってもだ。となると、近隣諸国の王族からの選定となる。

 直系の王族でありながら、王位継承権がない者を探すため、家臣たちは嬉々として選定に取りかかった。

 そして、しばらくしてアイヤール王国の国王の次男が選ばれたのだ。



 それからの展開は急加速だった。

 両国の間で使節団が何度も行き来され、半年後の春に盛大な結婚式が挙げられることが決まったのだ。


「結婚式が決まった時は、国中が歓喜に包まれました。これでシュトラ王国はさらに安泰だと」


 ガイムは当時を思い出しながら、懐かしそうな表情をした。


 しかし、それから安泰とは正反対の方向へ進んだことは、カリンでも容易に想像がつく。

 安泰のままであれば、ゴーストになったガイムが二人の前に現れたりはしないからだ。




「そんな、誰もが幸せを喜び合っている最中、クーデターが起きたのです」


 ガイムの表情が一転して怒りと憎悪に変わる。


 クーデターを起こしたのは、シュトラ王国で神官長を務めていたアークスという人物だった。

 神官長とはシュトラ王国での神官の最高位であり、国内の神官たちを取りまとめる重臣だ。


 国内の式典等はすべて神官長の下で行われ、エミリナ女王の即位式はもちろん、半年後の結婚式もアークスが取り仕切ることとなっていた。

 王宮の祭事を一手に取り仕切っている神官長である。シュトラ王国で一番の発言力を持っていたといっても過言ではなかった。


 そのアークス神官長がクーデターを起こしたのだ。

 当然ながら王宮内は大混乱になった。


「アークスは、あろうことかエミリナ女王を人質にとったのです。そして、王宮の奥の間一帯に防御壁プロテクション・バリアを張り、誰も中に入れさせないようにしました」



 防御壁プロテクション・バリア……カリンは初めてシャスターに出会った時のことを思い出した。

 騎士たちに襲われそうになった時、カリンは神聖魔法の一つである防御壁プロテクション・バリアで防いだのだ。


 神官見習いだったカリンでも、三人の騎士を寄せ付けない程のバリアを作れるのだ。王国の神官長ともなれば、その何倍も強力で広範囲なバリアを張れたのだろう。



「しかし何故、そのアークスっていう人はそんな暴挙に出たのですか?」


 カリンの疑問はもっともだった。

 神官長ほどの重臣がクーデターを起こすとは、よほどの理由があったに違いない


「理由は分かりません。ただ、アークスは若くして神官長に抜擢されるほど才能溢れる実力者でした。だからこそ、神官長以上の高みを望んだのかもしれません」


「神官長以上の高みって、まさか……」


「カリンさんの想像するとおり、この国の頂点です。しかし、アークスは国王に就くという選択肢は取りませんでした。彼の要求はただ一つ。王制を廃止し議会の設立をするというものでした」


「議会?」


 カリンには言葉の意味が分からなかった。

 国王がいる国で生まれ育ったカリンにとっては、国王が国を支配することが当たり前だったからだ。それ以外の政治体制など知る由もなかった。


「恥ずかしながら、私も議会というものを知りませんでした。そもそも知っている者など、当時のシュトラ王国にはアークス以外いなかったと思います」



 国王ひとりに政治の権限が集中する王制とは違い、議会制とは人々から選ばれた数名の代表者たちが話し合いで政治を行なっていくということだ。


 アークスの説明を防御壁プロテクション・バリアの外から聞いていた家臣たちは全員が反対した。

 彼の要求は五百年もの長きに渡って続いているシュトラ王国を滅ぼすことに他ならなかった。そんなことは断じて許されるはずがない。


 しかも、もし議会制になった場合、家臣の中で最も権力を持っているアークスが代表になる事は明白だ。

 そうなれば、事実上アークスがこの国の頂点となる。


 つまり、アークスが権力欲しさに起こしたクーデターだったのだ。



「我々は断固として反対しました。しかし、アークスはそんな我々を嘲笑うかの如く、禁断の手段に出たのです」


 アークスはエミリナ女王を王宮の奥の間へと連れ出したまま姿を現してはいなかった。

 しかし、その間も防御壁プロテクション・バリアは張られたままで、何人たりとも破ることができないでいた。




 そこで、エミリナ女王を救出する方法を家臣たちは考え合い、ある一つの解決策にたどり着いた。


 その解決策とは、王国内にいる全魔法使い(ウィザード)防御壁プロテクション・バリアの一ヶ所のみに魔法攻撃をし続ける。

 そしてその箇所のバリアの威力が弱まったところで、王国で最強の騎士が魔法の剣(マジック・ソード)でそこを斬るというものだった。



「王国内にいる魔法使い(ウィザード)は十人。事件が起きた三日後の夜に全員が集まり、すぐに実行されました。各々の魔法使い(ウィザード)がバリアの一点だけに集中して魔法攻撃を行うと、その一点のバリアの膜は薄くなりました。そこに、私が魔法の剣(マジック・ソード)でバリアを突き破り、破壊したのです」


「えっ……ということは、ガイムさんがシュトラ王国最強の騎士? ガイムさんて強かったの!」


 叫んだ後、失礼なことを言ってしまったことに気付いたカリンは慌てて手を口に当てる。

 そういえば、会った時に「騎士団長」と名乗っていたのを思い出した。


「ごめんなさい!」


 頭を思いきり下げたカリンを見てガイムは笑うだけだった。


「この身体を見れば、私でも王国一の最強なんて疑いますから」


 ガイムは透けている自分の腕を眺めながら苦笑した。


「本当にごめんなさい!」


「良いのですよ。それより話しを続けましょう。我々は見事に防御壁プロテクション・バリアを破壊することができたのです。しかし、それこそがアークスの罠でした。バリアの中は、人を殺してアンデッドに変えてしまう、恐ろしい薬で満たされていたのです」



 バリアを破壊した瞬間、気体化された薬が急速に国中にバラ撒かれた。


 そして、シュトラ王国は一夜にして死者の国に変貌してしまったのだ。






皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!


「死者の森編」やっと、何人かの人物が登場してきました。

騎士団長ガイム、エミリナ女王、そして神官長アークスです。(後ろの二人は名前だけですが)


シャスターたちと、どう関わっていくのか。

今後の展開を楽しみにして頂ければ嬉しいです。


これからも、もしよければ読んでくださいね。

よろしくお願いします。


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