第百十三話 打開策
「そんなことが起きていたとは……」
今度はヴァルレインが驚く。
エーレヴィンから冥々の大地への経緯は聞いていた。シャスターがエルシーネたちと冥々の大地に赴き、途中で合流したルーシェやユーリットの助けもあって始祖の吸血鬼の偽者を倒したという話だ。
しかし、その後についてはエーレヴィンから聞かされていなかった。エーレヴィンもまだ知らない情報なのだろう。
「本当にルーシェは死んだのか?」
信じられないという表情でヴァルレインが尋ねる。
「分からない。だから、星華に調べに行ってもらった」
星華は宴の後、ルーシェと聖天使ラーが戦った場所に向かったのだ。
「でも、聖天使ラーの攻撃を受けてルーシェが消え去ったのは確かだ」
遠くから星華がその光景を見ていたからだ。
「……そうか」
ヴァルレインはため息をついた。
「それにしても、まさかユーリットが絡んでいたとはな」
ヴァルレインは険しい表情だ。
当然、ヴァルレインもユーリットのことはよく知っている。一見おとなしそうに見えるが大胆不敵であり、天然な言動とは裏腹に常に冷静沈着で鋭い思考の持ち主だ。
しかし、だからこそユーリットがルーシェを裏切ったことが信じられない。ユーリットやエースライン帝国にとっても、五芒星の後継者と敵対することは有害無益だからだ。
「本人は『ファルス神教の信徒だから仕方がない』と言っていたけど」
「そんな戯言、お前は信じていないのだろう?」
「ああ、『信徒だから仕方がない』というのは嘘だ」
ユーリットはファルス神教の信徒の立場を利用してルーシェと戦ったのだ。
殺しに加担した本当の理由は別にあるはずだ。
「あの皇女はかなりの癖者だからな」
「ユーリットの魂胆がなかなか見えてこない」
シャスターはビールを一気に飲んだ。
「フローレの件もルーシェの件も行き詰まりだ」
どちらも打開策がない状況だ。
とりあえず、ルーシェに関しては星華が戻って来るのを待つしかない。それでシャスターはぶらぶらと聖都をうろついていたのだ。
「氷の少女に関しても来るのを待つしかないな」
「星華の戻りを? でも、さっきの話が全てだよ」
「星華じゃないさ」
ヴァルレインは軽く頭を横に振った。
「少女が自ら氷の棺を破壊したとすると、少女はお前に会いに来る可能性が高い」
「なぜ?」
「エーレヴィンから聞いている。少女がお前をかなり慕っていたとな」
「チッ!」
シャスターはここにはいない相手に対して舌打ちをした。
しかし、ヴァルレインは茶化すこともせず、真剣な表情だ。
「少女がお前に会いに来た時、真実が分かるはずだ」
さらにヴァルレインは話を続ける。
「それに星華が氷の棺の部屋に落とされたのも偶然ではないはずだ」
それはシャスターも思っていたことだ。
「謎の女性も気になるし」
氷の棺の前に佇んでいた女性に関しては今のところ全く情報がない。
フローレとどのような関係なのだろうか。もし、フローレと関係があった場合、フローレは何故そのような人外の者と知り合いなのか。
「分からないことだらけだが、お前のところにいれば、それらの情報は集まってくるはずだ」
ヴァルレインはシャスターを見つめた。
「だから、しばらくの間、俺はお前と一緒に行動する」




