第百十話 聖都の街にて
カリンとマレードが政庁で悶々とする日々を過ごしていた頃、シャスターはファルス神聖国の市街地にいた。毎日楽しそうに街をぶらついている。
「今までファルス神聖国に来た時は聖都をのんびり見ることはできなかったからね。さすが七大雄国、活気があるな」
聖都ファルスアイレアはエースライン帝国の帝都エースヒルに比べて小さいとはいえ、百万人もいる超大都市だ。聖都には多くの街があり無数の市場が広がっていた。
ただ、聖都ファルスアイレアには他国の大都市とは大きく違う点もある。圧倒的に人間以外の種族の住民数が少ないのだ。例えば、帝都エースヒルではエルフやドワーフ、獣人族など様々な種族が暮らしている。しかし、ファルス神教は人間に布教してきた神教であるため、ファルス神聖国では必然的に人間以外の種族が少ないのだ。
とはいえ、超大都市であることには変わりない。街は多くの人々でひきめきあっている。
シャスターはひとりで街中をぶらぶらと楽しそうに探索していた。星華は別の任務のため聖都にはいない。
星華はシャスターの守護者だ。シャスターとの別行動には反対だったが、マスターの命令であれば仕方がない。宴の翌朝には任務に向けて出立した。
同時にシャスターも政庁を出て街の宿屋に宿泊していた。無論、身分は隠している。
「今日のランチはここにしよう」
シャスターは狭い路地の一画にあるレストランに入った。美味しいとの噂の店だったからだ。
正午であり店内は満席に近い。店内の奥に通されたシャスターはテーブルに着くと店のお勧めの料理とビールを頼む。
すぐに湯気をあげた肉料理と冷えたビールがテーブルの上に並べられた。
「うん、美味しい」
シャスターは満足げに料理を食べている。
王宮などで出される高級な料理も美味しいが、庶民に人気がある店の料理はボリュームもあって美味しい。しかも値段が安い。
シャスターは追加で別の料理をいくつか注文すると、ビールと一緒に楽しんでいた。
しかし、そんな至福の時間も長くは続かなかった。
シャスターが食べている小さな丸テーブルの反対側にひとりの男が座ったからだ。
途端にシャスターの顔が不機嫌になる。
「店員には相席でも良いなんて言っていないけど」
「そういうな。俺もこんな国に来るつもりはなかった」
少年は表情も変えずにシャスターを見つめた。




