第百八話 約束
カリンとマレードは宴の後、喧嘩をした。
といっても、カリンからマレードへの一方的なものだ。
理由はユーリットのことだ。ユーリットの裏切り行為がカリンには許せないのだ。
マレードとしてもカリンの気持ちはよく分かる。マレードもカリンの立場だったら同じ気持ちになっていただろう。
しかし、マレードにはファルス神教騎士団としての立場があった。彼女としては騎士団長であるユーリットを疑うことはできないのだ。
「とりあえず、ユーリット騎士団長が来るのを待とう」
寝室に引き篭もったカリンをマレードは扉の前でなだめていた。
明日以降、ユーリットがカリンをデーメルン神の謎の聖堂に連れて行く約束をしていた。その時に気持ちの全てをぶつければいい。
しかし、翌日になってもユーリットが現れることはなかった。
「ユーリット皇女殿下はいつ来るのかな?」
一晩経って、カリンも落ち着いたようだ。
八つ当たりをしてしまったマレードに朝一番にちゃんと謝った。しかし、ユーリットを許せない気持ちは変わらない。
「しばらく待ってみるしかないな」
「そうだね」
しかし、それから数日が経ってもユーリットが現れることはなかった。こちらからユーリットに会いに行こうにも、そもそも何処にいるのかさえも分からない。
仕方なく二人は何もすることもないまま、政庁で過ごすことにした。
政庁はとても広い。高官たちはファルス神教の祝福者であるカリンを敬っているようで皆親切だ。政庁内のどこに行っても、そこにいる高官が親切に施設を案内してくれる。
カリンも最初のうちは楽しかったが、それも数日もすれば飽きてくる。
シャスターの部屋にも行ってみたが、宴の翌日からシャスターは部屋にいなかった。給仕に聞いたところ、一度も部屋に帰ってきていないようだ。
突然何も言わずにいなくなったシャスターにカリンは憤慨していたが、どうなるわけでもない。
ただ、日数だけが過ぎ去っていった。
そんな折、たまたま二人がいたラウンジの奥の通路を歩いている少女を見つけた。
「ユーリット騎士団長!」
マレードが大声で駆け寄る。
その声に気付いたユーリットはマレードとカリンを見つけると微笑んだ。
「こんにちは、マレード」
「こんにちは、ではありません!」
憤った表情でマレードはユーリットの前に立った。
「ユーリット騎士団長、この数日間、なぜ一度も顔を見せないのですか?」
「ごめんなさい。毎日が忙しくて」
「八聖卿になったから忙しいのですか?」
質問をしたのは後から来たカリンだった。
その声にはかなりトゲがある。
「その通りよ、カリンちゃん」
ユーリットはカリンに向き合った。




