第百七話 偽りの言葉
「間接的な手助けだから責任はないと?」
「そうは言っていません」
ユーリットは微笑みながら反論した。
「ただ、私もファルス神教徒です。聖天使ラー様にお味方するのは当然ではないでしょうか?」
「そりゃ、そうだ」
今度はシャスターが笑った。
第一聖騎士団が見ている中、ルーシェを助けたら、それこそ背信者になってしまう。
「ただ、シャスター様には謝罪しなければなりません」
一転、ユーリットは神妙な面持ちになった。
「シャスター様からルーシェ様のことを聞かれた時、『ファルス神聖国に来たという情報は聞いていません』と答えたことです」
宴の前にユーリットに会った時、シャスターはルーシェがファルス神聖国へ来ているかどうか尋ねた。
それについての謝罪をしているのだ。
「別に謝罪する必要はないよ。実際にルーシェはファルス神聖国には来ていないし」
国境付近でルーシェは聖天使ラーによって消滅したからだ。
「それにユーリットにも立場があるからね。言えないこともあるのは分かっているよ」
シャスターは寛容に理解を示した。
無論、シャスターは星華からの報告でルーシェのことは知っていた。それにユーリットが関与していたことも。
そして、おそらくユーリットはシャスターが知っていたことを知っているはずだ。
だからこそ、本心は話さない。
「ルーシェ様はシャスター様に対してかなり恋焦がれていましたからね」
「まったく迷惑なことだよ。これでやっと安心して寝れる」
少女の前でも気にせずにソファーに横になったシャスターはそのまま寝る態勢だ。
「レディーの前だけど、失礼するよ」
「いえいえ、ここはシャスター様のお部屋ですので、ご自由に」
部屋から出ようとしたユーリットだったが、何かを思い出したようにシャスターに尋ねてみる。
「シャスター様は私を恨まないのですか?」
「ん、なんで?」
「私が阻止しなければ、ルーシェ様は助かっていたかもしれませんので」
「さっき、ユーリットが自ら言ったとおりだよ。ファルス神教徒としては聖天使ラーに味方するのは当然だろう?」
シャスターは大きなあくびをした。
「それに戦いに生死は付きものだからね」
シャスターは眠そうだが、ユーリットはさらに質問をする。
「ルーシェ様が死んで悲しくはないのですか?」
「全く悲しくないと言えば嘘になるけど、俺たち五芒星の後継者は危険な旅をしているからね」
「……シャスター様はルーシェ様のことをどう思っていたのですか?」
「ぐぅぐぅ……」
寝てしまったようだ。
シャスターの寝顔に微笑みかけると、ユーリットは静かに部屋から出て行った。




