第百五話 偽りの皇女
「マレードには申し訳ないけれど」
自室に戻ってきた途端、カリンは口を開いた。
「私はユーリット皇女殿下が信用できない」
カリンは裏切られた気持ちだった。
宴が始まる前まで、カリンはユーリットを心から尊敬していた。
カリンのためにファルス神聖国で色々と尽力してくれたことも嬉しかった。とても優しくて心の強い少女だということも分かった。
畏れ多いことかもしれないが、同じ歳で友達になれるかもと思っていた。
しかし、皇女の全てが偽りだったのだ。
「ユーリット皇女殿下の行動が全く理解できない!」
「カリン……」
マレードにもカリンの気持ちがよく分かる。
マレードもユーリットが何を考えているのか、分からなくなっていたからだ。
「何でラティーマの後継者を殺さなくちゃならなかったの? 二人は仲が良かったと聞いていたのに変じゃない?」
「それはそうなのだが……」
マレードは答えられない。
そんなマレードを見て、カリンは一線を越えた推論をした。
「ユーリット皇女殿下はもっと偉くなりたくて、聖天使ラーに気に入られようとしているんじゃ……」
「うちの騎士団長を侮辱する発言は慎め!」
マレードの目は本気だ。
しかし、カリンも負けてはいない。
「実際、聖天使ラーに気に入られて八聖卿になったじゃないの!」
カリンは怒りをぶつけた。
「仲間を売るなんて最低よ!」
「カリン、それ以上言うな!」
マレードも大声で怒鳴る。
「なによ! マレードのバカ!」
カリンは泣きながら寝室に入ると扉を思ったきり閉めた。
残されたマレードは大きなため息をつくしかなかった。




