第百話 驚愕と静寂
あまりにも衝撃的なことで、会場にいる全員が唖然として声が出ない。あり得ないことだったからだ。
ユーリット騎士団長は、エースライン帝国にあるファルス神教帝都本部の人間だ。むろん、ファルス神聖国も帝都本部も同じファルス神教を信仰する組織だ。しかし、開祖が興したファルス神聖国とは違い、帝都本部はファルス神聖国の下部組織である。さらに近年、帝都本部は本家よりも巨大になりつつある。
そのため、対外上は友好的でありながらもファルス神聖国の高位の者たちから仮想敵国扱いされていた。そして、その仮想敵国扱いの最もたる者たちが八聖卿だったはずだ。
それがどうして、帝都本部のナンバー2であるユーリット騎士団長がファルス神聖国の八聖卿に加わることになるのか。
静まり返った後にはざわめきが起こった。中には非難めいた小声をあげる者たちもいる。当然といえば当然だ。
「ほぉー」
シャスターは驚きながらも面白そうに壇上を見つめていた。先ほど八聖卿の間で八聖卿たちはユーリットを「仲間」と言っていたが、まさか八聖卿そのものに加わるとは思わなかったからだ。
非難めいた声は徐々に大きくなっていく。
それはそうだろう、八聖卿ということはこの会場にいる者たちよりも他国の者が上位者となるということだからだ。
「静まれ!」
ナルイザ卿が声を上げると会場は一斉に声が消えた。
いくら不満があったとしても、彼らにとって八聖卿の決め事に反対するなど許されない。
ゆっくりと会場を見渡したナルイザ卿はさらに驚くべき発言をした。
「お決めになったのは聖天使ラー様である。これに意を唱える者は天罰を受けると心得よ!」
一瞬の静寂の後、会場内にはどよめきが起きた。
ここにいるのはファルス神聖国の高位者のみだ。八聖卿のように詳細にとはいかないまでも、聖天使ラーが実在することは理解している。
しかし、実際にその名が出ると驚いてしまうのは仕方がない。
そんな彼らのどよめきを無視してナルイザ卿は淡々と言葉を続けた。
「先日、八聖卿であったマルナン卿が亡くなった」




