第九十六話 違和感
八聖卿の間から出た後、再びナルイザ卿が下の階層まで案内をしてくれた。
「それでは戻りましょう」
四人が空間転送で移動すると、そこにはマレードが立っていた。彼女はフロアの見学などせずにカリンを待っていたのだ。
「マレード!」
カリンはマレードに抱きついた。
マレードが待っていてくれたことが嬉しかったのだ。
「さて、宴に行こうか。お腹も空いてきたし」
相変わらずシャスターは図々しいが、確かにカリンもお腹が空いてきていた。
ナルイザ卿がそのまま彼らを宴に連れて行くと思ったのだが、ナルイザ卿はその場に立ち止まった。
「八聖卿との顔合わせが予定より早く終わり、宴まで少し時間があるようです。もう少しだけお部屋でお待ち頂けますか?」
ナルイザ卿は申し訳なさそうに謝罪するが、ファルス神聖国のトップの一人がこれほど低姿勢だとカリンとしては恐縮してしまう。
それに部屋で少しでも休めることは嬉しかった。先ほどまでユーリットに政庁内を連れ回されていて疲れていたからだ。
「分かりました」
カリンが快く了解すると、ナルイザ卿はにこやかにその場から退出した。
シャスターとカリンは部屋があるエリアに向かう。
「それじゃ、また」
シャスターがさっさと自分の部屋に入るのを見届けた後、ユーリットが近くの部屋のドアを開ける。
「カリンちゃんの部屋はここよ」
ユーリットがカリンを部屋へ通す。
「わぁ、広い!」
カリンは喜んだ。
エースライン帝国でのファルス神教帝都本部は宿舎だったため、そこまで広くはなかった。しかし、この部屋はその十倍は広い。
それに部屋にはカリンの荷物が置いてある。政庁案内の前に従士が運んでいてくれたのだ。
さらに嬉しいことにカリンとマレードは同室だった。護衛役として同室にするようにと、ユーリットが口添えしてくれていたのだ。
「それでは、マレード。カリンちゃんのことを頼みましたよ」
「お任せください、ユーリット騎士団長」
ユーリットが立ち去ると、カリンはふかふかのベッドに跳びのった。
「宴にはマレードも一緒に行けるんでしょ?」
「ああ。カリンの護衛としてな」
「良かった!」
カリンは笑顔になる。
「ところで、八聖卿たちはどうだった?」
マレードとしては気になるのは当然だ。
「うーん、私の勝手なイメージで老人ばかりと思っていたけど、そんなことなかったかな」
女性や若そうな男性もいたからだ。
「それに騎士の人もいたよ」
一人だけ甲冑姿の騎士がいたのは意外であり印象深かった。白銀の美しい鎧を着込んだ姿はカリンの目から見ても威風堂々として映っていた。
「ああ、おそらく、その方はファルス神聖国第一神聖騎士団のカナルダン騎士団長だろう」
当然マレードは顔を見たことはないが、その武勇はエースライン帝国まで伝わっている。
「カナルダン騎士団長が八聖卿の一人だったとは……いや、当然と言えば当然か」
マレードはひとり納得していた。
「八聖卿の前で緊張したけど、シャスターもユーリット様も一緒だったから何とか大丈夫だったよ」
「そうか」
「うん。それに八聖卿の人たちはユーリット様のことを仲間だと言っていたし。仲が悪いと思っていたけど、全然そんなことなかった」
「ほぉ……」
マレードは少しだけ目を細めた。
(やはり、おかしいな)
シャスターと初めて出会った宿屋でマレードは始祖の吸血鬼の偽者の話を聞いていた。ユーリットの神聖魔法で結界を張り、ラティーマの後継者が偽者にトドメを刺した。ということは、ユーリットは八聖卿に恨まれているはずだ。
それが「仲間」とは、明らかに変だ。
しかも、八聖卿はユーリットにデーメルン神のものであろう秘密の聖堂まで教えている。カリンにデーメルン神と契約させて、十二神全ての契約者となる「聖教皇」にさせたいという思惑があるのだろうが、果たしてそれだけなのだろうか。
マレードは秘密の聖堂の話を聞いた時に感じたユーリットへの違和感を思い出した。その感覚はさらに大きくなるのと同時にマレードへ不安を与える。
「なぁ、カリン?」
とっさに声を掛けてしまったが、振り向くとすでにカリンはベッドの上でスヤスヤと寝息を立てていた。
軽いため息を吐き、ひとり苦笑したマレードはそのまま寝ることもなくカリンを見守り続けた。
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