第九十五話 品定め
「仲間?」
訝しげにシャスターが尋ねる。
「シャスター様も知っておられる通り、ファルス神聖国は聖天使ラー様がおつくりになられました」
八聖卿が話していることは、一般的に知られている建国の伝説としてではない。本当の意味で聖天使ラーが国をつくったことを示唆していた。
「もちろん、知っていますよ。今でも聖天使ラーの支配下にあることもね」
とはさすがに言わずにシャスターは軽く頷いた。
「聖天使ラー様がユーリット騎士団長をお認めになられたのです」
それで仲間ということか。
シャスターはナルイザ卿がユーリットに愛想を振りまいていた理由が理解できた。聖天使ラーが認めたからこそ、始祖の吸血鬼の偽者を倒したユーリットでも特権的な待遇を与えられたのだ。
聖天使ラーに認められた理由は想像がつく。
(ルーシェを消滅させたからだ)
星華の報告では、聖天使ラーとルーシェの戦いにユーリットが加担してルーシェが消滅した。会話の内容までは分からないが、その時にユーリットは聖天使ラーに認められたのだろう。
「ファルス神教の祝福者様、シャスター様。お二人も長旅でお疲れでしょうし、今日はご挨拶ということでこれで終わりに致しましょう」
しばらくすると、代表者が終わりを告げた。
丁寧な言い回しだが、要するにカリンの品定めが終わったということだろう。
カリンは心の中でホッとした。もっと長い時間をかけて色々な質問を受けるのかと思っていたからだ。
早く終わって嬉しい反面、カリンも八聖卿たちに聞きたいことがある。
デーメルン神のことだ。
「あの……」
言いかけて咄嗟にカリンは口を閉じた。
この場で冥界デーメン神のことを聞くのは良くないと気付いたからだ。
カリンはファルス神聖国から賓客として招かれたためとなっているが、実際にはデーメルン神から「ファルス神聖国に行くが良い」と啓示を受けた為ファルス神聖国に来ているのだ。
デーメルン神のことを聞けば、何かしらデーメルン神に関心があると思われてしまう。
八聖卿はユーリット皇女に秘密の聖堂を教えたが、それはあくまでもカリンをデーメルン神と契約させることであって、八聖卿はカリンとデーメルン神の関係までは知らないはずだ。
だからこそ、デーメルン神に関心があることを八聖卿に知られるのはまずい。
「どうしましたか?」
「い、いえ、何でもありません」
慌ててカリンは頭を下げた。
「この後、宴を用意しております。そこではファルス神聖国の多くの幹部たちも参加しますので、ファルス神教の祝福者にもお越し頂ければ幸いでございます」
それで八聖卿との顔合わせは終了となった。




