第九十四話 八聖卿の間
「それでは、皆さま。他の八聖卿たちの所へご案内致しましょう」
夕刻になりナルイザ卿が迎えにきた。
マレードだけはこの場所に居残ることになるが、それは仕方がないことだった。ファルス神聖国のトップである八聖卿たちは殆ど人前に現れない。事務全般の長であるナルイザ卿は職位柄、人前に出ることも多いが、それでも部外者の前に現れることは破格のことなのだ。
八聖卿全員との対面はカリンとシャスター、そしてユーリットのみとなった。
「マレード……」
カリンが申し訳なさそうに声をかける。
「カリン、私のことは気にするな」
マレードはカリンの肩に手を掛けた。本音を言えばカリンの護衛としてついて行きたいが、自分よりも強いシャスターもユーリットもいる。
それに相手国の決まり事を守ることは外交上当然のことだ。
「マレード、このフロアなら好きに動き回っても大丈夫よ」
まるで自分の家のように話す騎士団長に苦笑しながらも、マレードは頭を下げた。
「では行きましょう」
ナルイザ卿を先頭に階段を上る。
次の瞬間、場所が変わった。
「ここは聖山の頂、八聖卿の間でございます」
優雅な装飾品で飾られた廊下の先には大きな扉がある。その先に八聖卿がいるのだろう。
ナルイザ卿が扉を開くと、そこには数人の人物が立っていた。
「ようこそ、お越しくださいました。ファルス神教の祝福者様、そしてシャスター・イオ様」
代表して一人の人物が頭を下げると、それに倣ったかのように他の者たちも頭を下げた。
「どうぞおかけになってください」
シャスター、カリン、そしてユーリットに席が用意されている。三人は座ると、八聖卿たちもそれぞれの椅子に座った。
「カリンと申します。この度はお招き頂き、ありがとうございます」
八聖卿を前にして緊張はしているが、ここまで来たらあとは気合いだけだ。カリンは一人ひとりに視線を移した。勝手な想像で老人だけかと思っていたが、八聖卿には老若男女がいた。
そして、相手も同様にカリンを見つめていた。
「いやー、今まで何度かファルス神聖国には訪れていましたがいつも門前払いで、八聖卿の皆さんにお会いするのは初めてですよね。ファルス神教の祝福者カリンの付き添いだとしてもお会いできて嬉しいです」
かなりトゲのあるイヤミの挨拶をしたシャスターだったが、八聖卿たちは動じていない。
「前回まで我が国へお越しの時、シャスター様はまだ後継者になるための修行中であった為、ご迷惑になるかと思い、我々もお会いするのを控えていたのです」
ものはいいようだ。そう言われてはシャスターとしては何も言い返せない。
シャスターは隣に座っているユーリットを見た。
ユーリットはファルス神聖国に滞在中、八聖卿に何度も会っていたのだろう。実際、先ほどまでナルイザ卿はユーリットと親しげに話していた。
しかしだ。
よくよく考えれば、ユーリットがこの場にいる必要はない。ユーリットはファルス神教帝都本部の者だ。使節団として来ているだけの者が八聖卿たちだけの重要な会議に参加するのはあまりにも不自然だ。
(ユーリットがこの場に呼ばれているのはなぜか?)
そんなシャスターに訝しむ表情に気付いたのだろう。八聖卿のひとりが説明をした。
「ユーリット騎士団長は我々の仲間となったのです」




