第九十話 自分の意見
「もちろんよ、カリンちゃん」
ユーリットはカリンに笑顔を向けた。
「だって、カリンちゃんはそのためにファルス神聖国に来たのだから」
「ありがとうございます!」
カリンはおもいっきり頭を下げた。
「でも、今日は着いたばかりで疲れたでしょ?」
「私は全然大丈……」
「それにこの後には歓迎会もあるし。明日以降にしましょう」
そう言われたら、カリンはこれ以上何も言えない。さらに我を通せば、ワガママになってしまうからだ。
カリンは今日のところは諦めざるをえなかった。
「分かりました。よろしくお願いします!」
カリンはもう一度大きく頭を下げた。
「よし! それじゃ、政庁の案内を続けるわね。もう少し先にも絶景場所があるの」
ユーリットは嬉しそうにはしゃいでいる。
しかし、カリンとしては一つ気掛かりなことがあった。
「あの……」
「カリンちゃん、どうしたの?」
「これほど重要な話はシャスターにも話しておいた方が良いかなと思いまして」
この話はシャスターも知っておくべきだ。
しかし、シャスターは近くにはいない。今頃、自分の部屋でくつろいでいるはずだ。
「ユーリット皇女殿下、申し訳ございません。私、シャスターに話してきます」
皇女の政庁案内を断ることはかなり失礼だが、それでもシャスターにデーメルン神のことを伝える方が重要だと思ったのだ。
ユーリット皇女殿下は気分を害するかもしれない、カリンはそう思い恐縮したが、それでも自分の意見はしっかりと伝えた。
そんなカリンを見てユーリットは笑う。
「その点については大丈夫よ。今の話はシャスター様にすぐに伝わるから」
「えっ!?」
カリンは驚いた。
いや、カリンだけではない。マレードも驚いている。マレードはユーリットが気分を害するなんて万が一にも思っていない。それどころか、自分の意見を言い切ったカリンをさらに好きになるはずだ。
マレードが驚いたのはそこではない。「シャスター様にすぐに伝わる」という意味が分からないのだ。
「そうよね?」
「はい」
突然、声が聞こえたかと思うと、カリンの背後に黒ずくめの少女が現れた。
と同時に、超速でマレードが少女の首元を突き刺そうとしたが、その手をユーリットが止めた。
「星華さん!」
カリンが驚きの声を上げた。
立っていたのは星華だった。




