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第五話 退路なし

 それからも道中、何度かアンデッドたちと遭遇したが、二人はすぐに隠れたので見つかることもなく、順調に森の奥へと進んでいった。



 それから数時間ほど経った頃、二人はある廃墟にたどり着いた。

 元々は町であったであろう名残が残っている。


 そして、その廃墟の町にも多くのスケルトンたちが彷徨っていた。


「ね、ねぇ、あんなにもたくさん骸骨が……」


 カリンは不気味な光景に身体が震えていた。

 死者の森の中で何度かスケルトンに遭遇したが、改めて観察すると、そのおぞましい姿に寒気が走る。



 小さい頃、幽霊の話を祖父から何度も聞かされていた。

 人は成仏できずに死ぬと、この世に幽霊となって彷徨う話だ。子供のころはその話のせいで夜中にトイレに行けずに困ったこともあったが、大きくなるにつれてそんな話も忘れていた。


 神官見習いになってからもアンデッドの存在は知識として教わっていたが、レーシング王国で一生を終えるはずの自分には関係ないことだと思っていた。


 しかし、今まさに自分の目の前にアンデッドがいるのだ。

 死者を冒涜するような存在に、カリンは恐怖と共に嫌悪感を持っていた。



「あのアンデッドたちに自我ってあるの?」


 廃墟の中を彷徨っているスケルトンたちが何も考えていないようにカリンには見えたからだ。


「アンデッドになった場合、普通は生前の記憶がなくなって、ただ彷徨うだけの屍になる。目の前のスケルトンにも自我はないよ」


「でも、さっきの馬車のスケルトンたちは自我があるように見えたけど?」


 自我がないのならそもそも馬車に乗ったりはしないだろうとカリンは推測し、シャスターに答えを求める。


「生前、精神力の強い人の中にはアンデッドになっても自我を持つ者もいる。ただ、さっきの馬車の一行には自我はないよ」


「え、何で?」


「自我を持っていれば、会話をしているはずだからね。彼らはただ馬車に乗ってずっと森の中を彷徨っているだけ。そういう意味では目の前のスケルトンたちと同じさ」


 そう考えるとなんとなく可哀想に思えてくるが、カリンは感情に浸るより先にやるべきことがある。



「裏を返せば、死者の森には自我を持っているアンデッドもいるということね?」


「おそらくね。その中にはシュトラ王国の国民がアンデッドになった理由を知っている者もいる」


「つまり、フローレ姉さんの助ける方法を知っている可能性も高い」


「そういうこと」


「やった!」


 カリンが思わず両手を上げた。しかし、それにより最悪なことが起きてしまった。



「ヒヒーン!」


 カリンの声に驚いた馬が鳴いてしまったのだ。


 静寂な森に馬の鳴き声が響き渡る。


 鳴き声に反応して、振り向いたスケルトンたち。


 と同時に、彼らの何も無い空虚な目と、カリンの目が合ってしまった。



「あぁ……」


 カリンの身体から一瞬にして汗が吹き出す。



 その直後、近くを彷徨っていたスケルトンたちがシャスターとカリンに向かって一斉に駆け出してきた。


 気付かれてしまったのだ。

 その数は百体以上いるだろう。



「逃げるよ!」


 シャスターは馬の手綱を掴むと、全速力で駆け出した。カリンもそれに続く。



「ごめんなさい!」


 カリンは馬を駆りながら、ひたすら謝る。


「謝るのはいいから、はやく逃げて!」


 後ろを振り向くと、スケルトンたちが追いかけてきている。しかも、骨しかなく軽いからだろうか、かなりの速さだ。



 しばらくすると、二人が進む前方には墓場らしきものが多数見えてきた。

 すると、墓場の土がいくつも盛り上がり、おぞましいものが顔を出す。


「ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあー!」


 土の中から出てきたアンデッドの一種であるゾンビを見て、カリンは張り裂けるほどに声を上げた。

 腐った死体が動き回る姿は少女にとって衝撃すぎた。

 ゾンビだけでも百体近くはいる。



 前からはゾンビ、後ろからはスケルトンに挟まれ、二人は絶体絶命の状況になってしまった。


「どうするの? どうするの?」


 顔を真っ青にして、カリンが震え上がっている。



 もう逃げ場はない。

 じわじわと二人の前後から、アンデッドの大集団は迫ってきていた。




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