第八十五話 デーメルン神
「ファルス神教で一番の実力者がデーメルン神だからなの」
「えっ!? いや……あの、主神ヴァンシルでは?」
ユーリットの説明にカリンは驚いた。
一番の実力者はファルスの主神であるヴァンシル神のはずだからだ。
「表面上はね。でも、実際にはデーメルン神なの」
ユーリットは説明を続けた。
そもそも、デーメルン神はファルスの神々ではなかったらしい。神代のファルスの神々よりも更に太古の神だったのだ。
「太古の神……噂は本当だったのですね」
マレードも真剣な表情で聞いていた。
デーメルン神は異端の神だと呼ばれていた。その理由として、ファルスの神々よりも以前の神だとの噂があることをマレードは思い出した。
「本当だったようですよ」
「それにしても、神代よりもさらに昔の時代があったとは驚きです」
この世界を創ったのは神代の者たちだ。
それでは神代の世界を創った者たちは……。
「マレード、そのことを考えても答えは出ませんよ」
「……そうでした。すいません」
「いえいえ、話を元に戻しましょうか」
袋小路に入り込みそうになったマレードをユーリットは引き戻した。
「神代にデーメルン神はファルスの神々と合流したのだと思います」
どのような経緯があったのかは不明だが、デーメルン神をファルスの神々は仲間として受け入れた。しかもファルス十二神の一柱として迎え入れたのだ。かなりの厚遇だが、それだけの実力がデーメルン神にはあるということなのだろう。
しかし不思議なことに、今の状況を見る限りデーメルン神は厚遇されているとは言えない。それどころか、明らかに冷遇だ。
「厚遇から冷遇になった、その理由については書物にも書かれていなかったの」
ユーリットは残念そうな表情になった。
その部分こそがデーメルン神とファルスの神々の核となる部分に違いないからだ。
「あのぉ……」
カリンがおそるおそる手をあげる。
「なに? カリンちゃん」
「もしかしたら、デーメルン神を受け入れる時、すでに厚遇ではなかったのではないでしょうか」
「ほぉ」
ユーリットの目が輝いた。
「カリンちゃん、続けて」
「えーと、厚遇ではないという言い方も適切じゃないかもしれません。ファルスの神々はデーメルン神だけを別格としていたのではないでしょうか。だから、厚遇でも冷遇でもない、特別な存在だったと思うのです」
「うんうん、それで?」
「特別な存在だからこそ、ファルスの神々も気軽にデーメルン神に接することはできない。それが傍から見て冷遇に見えていたんじゃないのかと」
「そう思う理由は?」
「私がデーメルン神の信力に触れた時のことを思い出したからです」
カリンが帝都ファルス神教本部で二度目のデーメルン神の信力に触れた時のことだ。
その時はクラム大神官長をはじめ、全ての大神官の立ち合いのもと行われた。
カリンは自分の信力の底に落ちていきながら、十一もの異なる色彩と暖かみを持つ信力に触れた。当然それは十一神の信力だ。そして、落ちていった更に奥に闇のような信力……デーメルン神の信力があったのだ。
「その時に気付いたのです。十一神それぞれの信力に触れると、他の神々の色彩が微妙に変わることに」
例えば、主神ヴァンシルの信力に触ると軍神ティールの信力の輝きが少し弱くなる。
それはファルスの神々の関係性が影響しているのだとカリンは思い、実際その推論は正しかったのだが。
「信力の底でデーメルン神の信力に触れた時、十一神からより一層強く輝く暖かい信力を感じたのです。私は『十一神が助けてくれている』と思っていたのですが、今思うと違っていたのかもしれません」
「何が違っていたと思ったの?」
「十一神の暖かい信力は私ではなく、デーメルン神に向けられたものだったのではないかと」
カリンの考えには根拠も理由もない。
しかし、それが正しいとカリンは確信していた。
デーメルン神はファルスの神々から崇拝されていると。
「カリンちゃんがそう思うのなら、それが正しいのでしょうね」
ユーリットは腑に落ちた表情で笑った。
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