第七十二話 ラティーマの旅人 41
しかも、ルーシェのレジェンドアイテム……ペンダントが弾けて壊れてしまった。
「馬鹿な!? レジェンドアイテムが壊れるなんて」
さすがのルーシェも突然過ぎる出来事に状況判断が追いつかない。
空間転移を何者かに阻止されたのだ。レジェンドアイテムを破るなど、あり得ないことだった。
「……いえ、方法はあるわ」
思い出したルーシェは空に視線を向けた。
「レジェンドアイテムを無効化するアイテムがあると聞いたことがあるわ」
つまり、レジェンドアイテムにレジェンドアイテムをぶつけたのだ。
しかし、いったい誰が。
レジェンドアイテムを伝説上の者である聖天使ラーが持っていても不思議ではないが、戦っている最中にルーシェの逃げの戦法に気付くことは難しいだろう。
あとは地上にいる聖騎士団の騎士団長だが、聖天使ラーの戦いに割り込む度胸などあるはずがない。
「でも、それじゃ、いったい……」
「お久しぶりです。ルーシェ様」
突然、ルーシェの後方から少女の明るい声が響いた。
ルーシェは「傲慢の罪」によって身体を動かすことができない。
しかし、声を聞いただけでその者の正体はすぐに分かった。
「……何であなたがここにいるの?」
「お二人の戦いを御近くで見てみたくて」
少女はルーシェの視界に入るところまで空中を移動した。
「ふーん、そうなんだ。ところで、お久しぶりっていうほどじゃないと思うけど?」
聖天使ラーから二つの大罪と羽根の攻撃を同時に受けているルーシェは非常に辛い状態に違いない。
しかし、突然現れた少女に対して弱みを見せることはない。毅然とした表情で笑っている。
「そうでしたね。お会いしたばかりでしたね」
そんなルーシェの気持ちを知ってか知らずか、少女は屈託ない笑顔を見せた。
「しかし、残念です。これでもうルーシェ様にお会いできなくなるなんて」
一転して悲しみの表情を浮かべた少女はルーシェに向けて頭を下げた。




