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第三話 森の中

 死者の森……西にレーシング王国、東にアイヤール王国に挟まれた広大な森である、という言い方は正しくないのかもしれない。


 なぜなら、元々この場所にはシュトラと呼ばれる王国があり、その王国が滅びて森となったからだ。

 シュトラ王国は百年ほど前に突然発生した謎の疫病のため全国民が死に絶え、一夜にして国が滅んだという悲惨な歴史が伝わっている。

 ただ昔のことであり、本当に一夜で滅んだかどうかの真偽は分からないが、少なくとも国が滅んだことは確かだ。

 しかも、時を同じくしてシュトラ王国全域を森が覆い、さらに疫病で死んだ者たちがアンデッドとなって森の中を彷徨っているといわれている。


 実際に森の周辺では不思議なことが頻繁に起こり、森に入った者が誰一人として森から出てこない。そのため、いつからかこの森は「死者の森」と呼ばれるようになり、シュトラ王国の呪いや怨念が渦巻いている森として恐れられてきたのだ。


 今ではレーシング王国とアイヤール王国を行き来する商人や旅人は、森の中を通らずに森の北側の外縁を大きく迂回して旅を行う。

 地図でみると、迂回路は北にそびえるゲンマーク山脈の山麓と死者の森の間を通るルートとなっていた。迂回路は馬を使っても十日はかかってしまうが、それでも森の中を通るよりも万倍も安全だった。



 そんな危険極まりない死者の森に入り込んだ者たちがいる。




「ね、ねぇ、シャスター、急に薄暗くなったわよ」


 シャスターにぴったりと付いて離れないカリンが震えながら叫ぶ。

 まだ森に入って少し進んだだけなのに、先ほどまでの晴れ間が嘘だったかのように、森の中は太陽の光がほとんど差し込まない状態だった。

 理由は頭上を茂っている木々のせいだ。


 それらの木々の形は奇妙に曲がっていたりくねっている。葉の色にしても新緑とは違い、青みと黒みが強い緑だ。

 カリンが今まで見たことがない木々は、まさに死者の森と呼ばれるだけあって薄気味悪かった。

 さらに森を進めば進むほど暗闇の濃さが増して、余計に不気味さを強調していく。

 しかも、霧まで立ち込めてきた。


「怖いの? 今ならまだレーシング王国にカリンだけでも戻れるけど」


「それはイヤ! 一緒に行く」


 震えているカリンだが、ここだけはキッパリと言い切る態度にシャスターは思わず笑ってしまった。


「何がおかしいの?」


 語気がきつくなったカリンに、何て言おうかと考えていたシャスターは突然、カリンの馬の手綱を引っ張ると街道から少し逸れた大木の後ろに隠れた。



「どうしたの?」


「しっ!」


 指を唇に当てたシャスターの険しい表情を見たカリンは、彼が見ている方向に目を向ける。


 二人が進む方向、つまり森の中心から物音が聴こえてくる。

 霧がかかってよく見えないが、どうやら馬車が現れたようだ。馬車の左右には馬に乗った騎士らしい者たちが護衛している。


「なんだ、森の中を通る人たちもいるんじゃない」


 安堵したカリンだったが、シャスターの視線は厳しいままだ。


「よく見てごらん」


 近づくにつれ、霧が晴れてきて馬車一行の姿が見え始める。


「!!」


 カリンは思わず声を上げそうになり、とっさに口を押さえた。


 想像を絶した光景だったからだ。



 馬に引かれた馬車……確かにそのとおりだが、普通の馬車とは全く違う。

 なぜなら、馬車を引いている馬は、骨だけの状態だったからだ。

 骸骨の馬が馬車を引いているのだ。


 その馬車もボロボロで帆もほとんどが破けていて中が丸見えだ。

 中には二人が座っていた。一人は子供、そしてもう一人は子供の母親のようだった。子供の頭を愛おしげに撫でている。

 しかし、その表情までは分からない。

 二人も骸骨だったからだ。


 立派な服を着た骸骨……おそらく生前は高貴な身分の者たちだったのだろう。御者も護衛の二人の騎士も同様に骸骨だった。



 あまりにも衝撃的な光景に、カリンは震えて声が出ない。

 いや、この場合は声が出ない方が良かった。叫んでいたら骸骨たちに気付かれてしまっていたからだ。


 馬車の一行はシャスターとカリンに気付くことなく、そのまま街道を通り過ぎる。



 その姿が見えなくなるのを確認してから、カリンはやっと息を吐いた。


「な、な、なんなの、あれは!?」


「あれはアンデッドの一種、スケルトンだよ」


「何で骸骨が動いているの?」


「アンデッドだからさ」


 カリンとは対照的に落ち着いているシャスターが答えるが、カリンは初めて見たアンデッドに驚きを隠せない。


「あれがアンデッド……」


「森に入った人たちが戻って来ないのは、アンデッドに襲われたからだろう。アンデッドは手強い。もう死んでいるから、剣で斬っても痛みは感じないし、何度斬られても襲ってくる。これから先は、さらに多くのアンデッドに遭遇することになると思うから、カリンも気をつけて」


「……分かったわ」


 カリンは緊張感を持って強くうなずいた。



 二人は街道に戻ろうと進み始めようとする。

 しかし、その時、再び異変が起きた。


 シャスターの目の前の地面が勝手に動き出したのだ。


「きゃー!」


 カリンは驚きのあまり、今度は声を上げてしまった。



皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!


いよいよ、章題となっている「死者の森」にシャスターとカリンが入りました。


一章の「レーシング王国編」では、ファンタジーでありながら一切魔物は出てきませんでしたが、二章ではいきなりアンデッドが登場です。


これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!



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