第五十六話 再び円卓で
息つく暇もなく、彼らは天井に映る光景に注視していた。
ファルス八聖卿の内、この部屋には七人がいる。
ここはファルス神聖国の中枢だ。
その彼らが見ている光景とは、当然ながら聖天使ラーとラティーマの後継者ルーシェの対峙だ。
七人はラティーマの後継者に激怒していた。
「聖天使ラー様に対してあの不遜な態度はなんだ!」
「青二才の分際で生意気な!」
そもそも彼らはルーシェに対して相当な恨みがある。
ルーシェがいなければ、聖天使ラーの力を借りることなく、冥々の大地の吸血鬼掃討作戦は成功していたはずだったからだ。
さらに第二、第三、第四聖騎士団までも彼女によって全滅した。多くの聖騎士を失ってしまったのだ。
ただ、それでもファルス神聖国にとって大幅な戦力ダウンとはならない。何故なら、第一聖騎士団が残っているからだ。カナルダンが率いる第一聖騎士団の実力は、他の聖騎士団全てを合わせたよりも数倍の強さを誇る。
そのため、ファルス神聖国は第一聖騎士団だけでも十分に安泰なのだが。
「第一聖騎士団が、あの小娘と戦っていたら、どうなっていたか……」
「我々は聖天使ラー様に感謝しなければならぬな」
当初、彼らもラティーマの後継者が聖天使ラーと戦うとは思っていなかった。少女は矛を収めてすぐに立ち去ると思っていたのだ。
しかし、あろうことか少女は聖天使ラーに暴言を発して戦いをするよう挑発してきたのだ。到底、許されるべきことではない。
そんな図々しいラティーマの後継者が聖天使ラーと戦うことになったのだ。
彼らとしては願ったり叶ったりだ。
「聖天使ラー様からラティーマの後継者に天罰が下されるだろう」
誰も聖天使ラーが負けるとは思っていない。
いくら桁違いの実力を持つ五芒星の後継者といえども、神代から生き続ける伝説上の者に敵うはずがないからだ。
だからこそ、七人はもう一つの話題へと移る。
「それにしても、あの発言は本当なのか?」
「子供の戯言を鵜呑みにする必要もなかろう」
「いや、聖天使ラー様が興味を持たれたのだ。信じるべきだ」
「それに子供とはいえ、彼女はラティーマの後継者だ。我々でも知らぬことを知っているのかもしれん」
始祖の吸血鬼の魂の場所を知っていると豪語した少女は天井の画面の中で不敵に微笑んでいる。
「……もしや!」
高齢の老人が口を開いた。
皆の視線が再び老人に集まる。
「聖天使ラー様が焦っておられるのは始祖の吸血鬼が原因なのではないか?」
「どういうことだ?」
「理由までは分からぬ。しかし、ゴーレムを使った索敵が得意なラティーマの後継者なら始祖の吸血鬼について何か知っていてもおかしくあるまい」
「つまり、聖天使ラー様がお姿をお見せになられたのは……」
「最初からラティーマの後継者に始祖の吸血鬼の魂の場所を聞き出すためだったのかもしれん」
老人はゆっくりと天井に目を向けた。




