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第二十九話 変人たち

「そういえば、ユーリット皇女殿下が話していた『そろそろ時間』って?」


 カリンがマレードに尋ねる。

 ユーリット皇女が時間を気にしている様子だったからだ。


「ああ、あれは会話の時間を気にしていたのさ」


 マレードが説明を続ける。


「マジックアイテムなどを使って他国にいる者と送受信をする場合、傍受される可能性もあるんだ。無論、幾重にも傍受障壁用の魔法を掛けているんだが、それでもファルス神聖国ならすぐに気付かれてしまうだろう。もって四、五分が限度だ。だから極力使用しない」


 マレードがユーリットと連絡を取り合ったのは帝都でカリンを守ることになった時とファルス神聖国に向かうことになった時、そして今回の三回だけだ。



「とはいえ、どうせ相手にはバレているけどね」


「……そうですね」


 笑うシャスターに対してマレードは苦笑するしかない。


「ん? どういうこと!?」


 二人の話が理解できないカリンがマレードに尋ねる。


「カリンは気付いていなかったと思うが、帝都を出てからずっと尾行されているんだ」


「えっ、ええ!?」


 思っていた以上に自分の声が大きかったため、カリンは自ら口を押さえた。



「私でもやっと気付いたほどだ。かなりの手だれみたいだぞ」


 と言いながらも、マレードは気にする様子もなく酒を飲み続ける。


「で、でも、それって危険なんじゃ……」


「気にすることはない。ファルス神聖国にとって、うちの騎士団長は要注意人物かもしれないが、カリンは大切な客人だ。危害を加えられることはない。それどころか、何か不測の事態が起きれば逆に助けてくれると思うぞ」


 マレードはグラスの酒を飲み干した。


「ファルス神聖国も七大雄国(セフティマ・グラン)の一つだ。かなりの情報力を持っているということさ。カリンが俺と合流したことも既に伝わっているだろうね」


 シャスターも全く気にすることなく酒を飲み続けている。この二人の大胆不敵さはすでに承知済みなのだが、それでもカリンは呆気に取られてしまう。


「ユーリット皇女殿下だけじゃなかった。私の周りの人たちはみんな変人だった」


「おい!」


「ひどい言われようだな」


「あっ!」


 カリンが気付いた時はもう遅かった。迂闊にも心の声が漏れてしまっていたようだ。


「おやすみなさい!」


 慌てたカリンはそそくさと部屋に戻って行った。


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