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第十五話 ラティーマの旅人 15

「あわわわ……」


 その光景を見た伝令や副官は泡を吹いて卒倒してしまった。隊長たちでさえ、身体が震えが止まらずに立っていられない。

 シスマルグだけは椅子に座っていたため、かろうじて倒れることはなかったが顔面蒼白だ。


「……何が起きたというのだ!?」


 テントの外には大勢の聖騎士(パラディン)が待機していた。さらに第一、第三、第四部隊も本隊と合流しているため、その数は千名を超えているはずだ。

 しかし、そこには誰一人としていなかった。

 いや、正確にいえば、立っている聖騎士(パラディン)がひとりもいない。全員が地面に倒れ血を流して絶命しているのだ。

 代わりに狼のような魔物が十数匹、周囲をうろついていた。魔物たちの口や爪には血がこびりついていて、中には聖騎士(パラディン)の腕や脚を口に咥えたままの魔物もいる。

 空に目を向けると、そこにも十数羽の怪鳥が旋回していた。怪鳥の嘴や脚も赤く染まっている。

 松明の火に照らされて空と地上の魔物たちが銀色に鈍く輝いていて、より一層不気味な光景を醸し出していた。 



「いったい……」


 この魔物たちに聖騎士(パラディン)たちが全滅させれたのは明白だ。

 しかし、たかがこの程度の数の魔物千名もの聖騎士(パラディン)が殺されるとは信じられない。

 ファルス神聖国聖騎士団はエリートの集団だ。シスマルグの第四聖騎士団だけでも周辺国を滅ぼせるだろう。彼にはそれだけの自信と自負があった。だからこそ、冥々の大地の征服の先発隊に手を挙げたのだ。

 しかし、それが今、目の前で砂のように崩れ去っている。



「お、おまえは誰だ?」


 シスマルグは声を振り絞って少女に声をあげた。

 この状況で少女が深く関係していることは間違いないからだ。


「おまえって、私のこと?」


 シスマルグとは対照的に少女は落ち着いた表情で笑みを浮かべている。


「人に名前を尋ねる時は先に自分が名乗るのが礼儀よね?」


 自分よりも二回りぐらい歳が離れている少女に注意された団長は怯えながらも少女を見つめる。

 そして、忙しく働いていた彼の頭の中で一つの推測が確信へと変わっていく。


「まさか……あなたは!」


 第一隊長が殺された魔法はおそらく鉱物系魔法だ。そして、周囲にいる魔物たちも金属のような見た目からして、おそらくはゴーレムであろう。

 そして、目の前に立っている幼い少女……みすぼらしい格好でありながら、年相応には全く見えない凛として堂々とした態度。


 間違いない。



「ラティーマ魔法学院の後継者がなぜここにいるのだ?」


 シスマルグは恐れ慄きながら叫んだ。



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