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第六十二話 戦いの終わり

 数分後、戦場の騎士たちの視力が戻りつつあった。


 目を開いた視界にはすでに光がなく、静寂な暗闇が広がっている。オイトが死んだことを戦場にいる全ての者が悟った。



 戦争は終わったのだ。



 戦場のあちらこちらで、歓声や安堵した声が聞こえてくる。

 全てが終わったことを知ったラウスはすぐにシャスターの元に駆け寄り片膝をつく。その後ろにはエルマとマルバスも続いた。


「シャスター殿……、いや、シャスター様、あなた様がイオ魔法学院の後継者とは知らず、数々の失礼な発言と行動をとってしまいました。どうかお許しいただきたい」


「ん? あぁ、いいよ、気にしなくて。黙っていたのはこっちだし、そもそも言うつもりもなかったし」


 シャスターにとってはどうでも良いことだったのだが、ラウスにとってはそうはいかない。

 目の前の少年は、神話に登場する伝説のイオ魔法学院、その後継者なのだ。格式から言えば、ラウスのような小国の国王など足元にも及ばない。アスト大陸で圧倒的な力を持つ七大雄国(セフティマ・グラン)の皇帝たちと同列だろう。


 そして強さで言えば、先ほど見た通りの実力だった。

 レーシング王国で最強だった魔法部隊を壊滅させ、オイトさえも全く歯が立たない程の実力の持ち主だ。

 レーシング王国の全戦力をもってしても、シャスター個人に敵わないことは明白だ。

 ラウスたちにとっては神にも等しい存在なのだ。


 そして、そのことは当然ながら戦場にいる全ての騎士たちも理解していた。いつの間にかシャスターを中心に一万以上の騎士たちが跪いている。端から見れば、その光景は圧巻だろう。



「シャスター!」


 しかし、そんなラウスたちにお構いなく走って来た少女がいた。


「シャスター、ありがとう! フェルドのみんな、そしてフローレ姉さんの仇を取ってくれて!」


 頭を下げたカリンにシャスターも悲痛の表情をしたまま頭を下げる。


「カリン、本当にごめん。俺が甘かったばかりにたくさんの人を死なせてしまった」


 フェルドの町にかけた幻影がオイト国王にバレてしまったことは完全に自分のミスだ。あまりレーシング王国に干渉をしないと決めていたが、そのせいで多くの人々を死なせてしまった。

 こんなことになるのなら、最初からもっとレーシング王国に干渉しておけばよかったのだ。デニムやオイトに正体を明かし、無理矢理にでもラウスに王位を譲らせることもできたのだ。



「全て俺の優柔不断のせいだ」


「ううん、それは違うよ」


 カリンが優しくシャスターに手を添えた。少年がとても後悔していることを分かっているからだ。


「さっきも言ったとおり、フェルドのみんなはシャスターにとても感謝していたし、フローレ姉さんだってシャスターに出会えて幸せだったはずだよ。それに今があるからこそ、こうやってレーシング王国のみんながまとまることが出来たのだと思う。それは全部シャスターのおかげ」


「その通りです、シャスター様」


 ラウスもカリンと同じ考えだった。


「シャスター様の威を借りて無理矢理に私が父から王位を奪っていたら、いずれこの国は内乱が起こったはずです」


 退位したオイトが黙っているはずがない。オイトに忠誠を誓っていた者たちもだ。しかも親衛隊や魔法部隊もいる。シャスターがこの国を去った後に必ず内乱が起きていたはずだ。


「しかし、今は違います。その少女が言った通り、シャスター様のおかげでレーシング王国は一つにまとまることができるのです」


 ラウスの後ろにはエルマとマルバスがいる。これからは傭兵隊と西領土騎士団は互いに手を取り合い団結していけるだろう。

 さらにその後ろには王領騎士団長のウルや分団長も片膝をつきながら控えていた。

 今回の件でウルは味方を守るためにオイトに逆らった。それはウルたちが騎士道とは何かを朧げながらも掴むことができたからだ。これから王領騎士団の新たな再生が始まるだろう。


「全てはシャスターのおかげだよ。だから、ありがとう!」


 カリンの心からの笑顔にシャスターもやっと表情が綻んだ。



 その時だった。


 黒い影がシェスターの前に現れた。

 周囲の者たちは驚き慌てているが、シャスターだけは冷静だった。


「星華、どうした?」


 続く星華の言葉に、誰もが耳を疑った。



「フローレさんは生きています」





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