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第六十話 敵対してはならぬ者

 すでに空は真っ暗だ。


 そこに金色に輝く魔法陣が浮かんでいる光景は、まさに不気味という表現が相応しかった。



「お願いだ。助けてくれ! あ、そうだ、貴殿にこの国をあげよう。貴殿が今日から国王だ。国王なら何でもできるぞ。好き放題贅沢をしたらどうだ?」


 魔法陣の上で磔になったまま動けないオイトが必死になって叫ぶが、それも虚しく夜空に消えていく。


月光の波動(ルナ・ラディウス)


 シャスターが小さく呟きながら右手を天に向ける。

 たったそれだけの行為であったが、突如夜空に十数個もの光の球が現れる。

 その光の球はオイトが乗っている魔法陣よりもさらに上空で輝いており、まるでいくつもの月が夜空に現れたかと思うほどだ。


「な、何をするのだ?」


 驚き慌てふためいているオイトにシャスターは静かに答えた。


「レベル四十の魔法だ。お前は一国の国王であり大勢の騎士たちも見ている。せめて最後ぐらい盛大な魔法で逝くがいい」


 その瞬間、オイトの顔つきが変わり顔色が青くなる。


 魔法レベルを聞いたからだ。



「レベル四十の魔法だと!? いくら高レベルの魔法使い(ウィザード)だとしても、儂よりも数年長くイオ魔法学院で修行したぐらいでそんな魔法が使えるはずが……」


 そこでオイトの言葉が止まった。


 さらなる驚愕の事実に気付いたからだ。



 オイトの顔が恐怖に引きつる。それは死を直前にした恐怖ではない。

 絶対に敵対してはならぬ相手と戦ってしまったことへの恐怖だった。



「ま、ま、まさか、まさか……あなた、いや、あなた様は……」


 それ以上、オイトは言葉を発せられずに震えている。




 その光景を見ていたラウスも驚いていた。

 あの父が震えているということはよほどのことだが、ラウスとしてはにわかに信じがたい。


 それに魔法に詳しくないラウスだが、レベル四十といえば勇者級の実力者ということだ。

 シャスターはこの広大な大陸中でも稀有な存在である勇者級だということなのだろうか。



 そんなラウスに対して、星華は直接には答えず、先ほどの続きを話し始めた。


「試験に合格した半数の五十人には、さらに一年後に再び試験があり、そこでも半数が脱落しました。その翌年にも試験があり、同じく半数が脱落しました。それが毎年続き、六年が経過した時には一人しか残っていませんでした」


 彼女の言わんとすることは明白だった。



「まさか……その一人というのが、シャスター殿ということなのか!?」


 質問と言うより確認だった。星華は無言で肯定する。


「それからもシャスター様はずっと修行を続け、毎年一人だけの試験にも合格し、十年目の今年イオ魔法学院を卒業されました」


 それを聞いたラウスはあまりにも大きな衝撃によろめいた。イオ魔法学院の卒業が何を意味するのか知っていたからだ。



 恐る恐る、確認のため星華に尋ねる。


「そもそも、イオ魔法学院が十年前門戸を開いた理由……それはイオ魔法学院の後継者を見つけるためだと聞いている。つまり、卒業を果たしたシャスター殿は……」


 それ以上言葉が続かないラウスに代り、星華は至極当然のように言葉を続けた。


「イオ魔法学院の正当なる後継者、それがシャスター様です」



皆さま、いつも読んで頂き、ありがとうございます!


ついに、六十話でシャスターの正体が明かされました。

ここから本題の物語が始まりますが、「レーシング王国編」も、もう少し続きます。

しばらくお付き合いくださいね。


これからもよろしくお願いします!

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