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第五十七話 少年の正体

 シャスターは爆発の中心地に立っていた。


 まるで火炎球(ファイア・ボール)の攻撃から一歩も動いていないかのように。いや、実際に一歩も動いていないのだろう。


 無傷どころか服さえもまったく汚れていない状況を見れば、誰の目から見ても火炎球(ファイア・ボール)はシャスターに全く効いていなかったことが容易に想像できた。



「ば、か、な……」


 やっとのことで声を絞り出したオイト国王だったが、何かの間違いだと思ったのだろう。


「お、お前たち、もう一度火炎球(ファイア・ボール)を撃ちまくれ!」


 シャスターを取り囲んでいる魔法部隊に命令すると、自らも両手を使って炎を放つ。


火炎球(ファイア・ボール)! 火炎球(ファイア・ボール)! 火炎球(ファイア・ボール)!」


 まるで恐怖に煽られるかのように国王を含めた魔法部隊全員が連続攻撃をして、再びシャスターの周りを大きな炎が燃え上がる。

 しかも、最初よりも数倍の規模の火力が連続して続いている。魔法部隊はこの後に控えているラウス軍との戦闘のために魔力を温存しておかなければならなかったのだが、そんな余裕などなく魔力を全て使い果たす勢いだった。



 しばらくの間、炎の攻撃が続いたが、それもやっと止まった。


「はぁ、はぁ、はぁ……もういいだろう」


 オイト国王も自らの魔力をほぼ使い果たしてしまった。しかし、これだけ撃てば今度こそシャスターは死んだに違いない。

 先ほどは何かのマジックアイテムでも使って防御できたのだろうが、これだけの火力を防ぐことは無理だ。


「儂が本気を出せば、貴様なんぞ……」


「本気でこの程度?」


 その声にオイト国王はまたしても驚愕した。


「な、なんだと……」



 爆風で何も見えない。しかし、その声は紛れも無いあの声だった。


 爆風の中から少年は歩いて出てきた。


 そして先ほどと同様に一切傷付いた様子もなく出てきた姿を見て、オイト国王はとっさに言葉が出ない。



「う、う、撃て、撃ちまくれ!」


 やっと声を張り上げたオイト国王はもう一度魔法部隊に命令したが、誰もが魔力を使い果してしまい攻撃できない。


「この程度で魔力が無くなるなんて、やはり最弱だね」



 突然、シャスターの前後左右に四つの巨大な炎の竜巻が発生した。


「なんだ、これは……」


 十数メートルも高さがある炎の竜巻にその場にいる誰もが茫然とするが、オイト国王をはじめ魔法使い(ウィザード)たちは、やっと正気に戻り嘲け笑う。


「性懲りもなく、また偽物の炎か」


 彼らはフェルドの町で似たような幻術の炎を見たばかりだ。確かに見上げる高さの炎は迫力があるが、偽物だと分かっていればなんてことはない。


 ひとりの魔法使い(ウィザード)が炎に近づき、その中に手を入れる。

 次の瞬間、その魔法使い(ウィザード)は全身が炎に包まれた。


「ぎゃー、熱い、熱い、助けて!」


 全身火達磨になった魔法使い(ウィザード)はそのまま倒れ込むが、すでに真っ黒になった身体は原形を留めていない。



「ま、まさか、ホ、ホンモノ……」


 オイト国王は恐怖に顔が引きつっていた。

 それと同時に魔法使い(ウィザード)たちは我先に逃げ出した。

 四つの巨大な炎が物凄い速さで縦横無尽に動き始めたからだ。



「に、逃げろー!」


 誰もが理解した。この炎に飲み込まれたら最後だと。

 火炎球(ファイア・ボール)の比ではない威力だ。

 茫然としてしまい逃げ遅れた数名の魔法使い(ウィザード)が炎の竜巻に飲み込まれていく。


「ひぃー、助けてー!」


「ぐぁー、熱い、熱い、熱い!」


 魔法使い(ウィザード)たちは叫び声を上げるが、それも一瞬でかき消されてしまう。

 魔法使い(ウィザード)たちには炎に対しての魔法耐性があるのだが、それがまるで役に立たないレベルの圧倒的な火力の炎だった。


 巨大な炎の竜巻は周辺に高温の火の粉を振り撒きながらラウスたちにも近づいてくる。

 激しく燃えさかる炎にラウスを守ろうとエルマが前に立つが、不思議なことに炎の竜巻はラウスたちを襲うことはなく、途中で方向を変えるとまるで魔法使い(ウィザード)たちだけを追いかけるように彼らに襲いかかっていった。


 叫び声や悲鳴を上げながら、魔法使い(ウィザード)たちは炎の中に消えていく。あまりにも凄まじい炎が容赦なく暴れ、彼らの数は見る見るうちに減っていった。



「こんなことがあり得るのか……」


 巨大な炎の竜巻を四本も放っただけでなく、魔法使い(ウィザード)たちだけを狙って襲うなどと、そんなことが可能なはずがない。


「これもあの少年の力なのか?」


 額から滝のような汗を流しながら、ラウスは荒れ狂っている炎を見続けた。


「信じられませんが、我々を襲わないことからそう考えるのが自然でしょう」


「エルマよ、あの少年は本当に剣士だったのだな?」


 ラウスは確認の意味で聞いた。

 エルマからシャスターの強さを聞いていた。それに自らもシャスターと戦って負けた。

しかし、ラウスはシャスターが実際に強豪の者と戦ったところを見たことがないからだ。



「剣の腕前はかなりのものです」


「私も保証します。恥ずかしながら、私とエルマ殿が同時に戦っても一分ももたないでしょう」


「いや、十秒さえもつ自信がないね」


 エルマとマルバスは苦笑した。

 なにせ王領騎士団の幹部を同時に相手して、易々と倒すほどの腕前だ。剣の実力は相当なものだった。

 しかし、二人はラウスが敢えて分かりきった質問をした意味も理解していた。


「シャスター殿が剣士なら、これはいったい何なのだ?」


 目の前の炎は、到底剣士の力ではない。

 しかし、シャスターが炎の竜巻を起こしていることは明白だ。


「もしかしたら、あの少年は……」


 ラウスの呟きにエルマはまさかとは思ったが、あることに気がつき顔面が真っ青になった。


 先ほどエルマは自分自身の傭兵としての長年の経験と勘から「シャスターはこのままでは終わらない」と言ったが、その経験と勘の正体が分かったのだ。


 つまり、それは……。



「奴は剣士、それもかなりの実力者なのに自分の剣を持っていなかった……」


 エルマの疑問にマルバスもハッとした。

 たしかにその通りだ。


「農作業小屋で三人の騎士と戦った時も、傭兵隊からフェルドの町を守った時も、前騎士団長と戦った時も、王領騎士団幹部との戦いの時も」


 シャスターはいつも剣を持っておらず、誰かに借りていたのだ。

 しかし、剣士にとって剣は命と同じくらい大切なものだ。それを剣の達人が持っていないなんてことがあるはずがない。


「つまり、シャスターは剣士ではない。あれほどの剣技の実力を持っているが、信じられないことに剣士ではない」


 では、何かと言われたら……。


 ここまできたら確信するしかない。それはラウスもマルバスも同じ答えだった。



「シャスターは魔法使い(ウィザード)だ!」



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