第六十七話 二人と二人と、残り一人
ダーヴィス将軍、エルシーネ、レーゼン、そして星華の四人は下位の吸血鬼の王たちと戦い始めた。
「千壊撃」「空烈撃」「崩砕撃」
ダーヴィス将軍は戦斧を大きく振り回しながら、重量級の力強い武法を繰り出す。
「疾風剣舞」「流水剣舞」「幻楼剣舞」
エルシーネは得意の剣舞を活かした武法で、目にも止まらない速さの中、斬り刻んでいく。
「聖者の攻撃」
さらに二人よりも凄まじい破壊力を見せているのはレーゼンだった。
彼女は聖騎士だ。神聖魔法も使える聖騎士は元々、対アンデッドとの戦いには相性が良い。しかも、レーゼンは聖騎士のみで編成されているファルス神教騎士団の副騎士団長だ。
アンデッドである下位の吸血鬼の王に対してもその強さは圧倒的だった。
聖者の攻撃とはレーゼンの身体を聖なる力へと昇華させる武法だ。つまり、彼女の拳や蹴りなどの攻撃全てが聖なる攻撃となって、アンデッドにダメージを与えられる。しかも、レーゼンは拳法家の高レベルスキルも持っているため、その破壊力は凄まじかった。
剣を鞘に収めたまま、金色に輝く両手両脚を使って下位の吸血鬼の王を縦横無尽に攻撃している。
「彼女、凄いわね!」
「対アンデッドであれば、我々十輝将以上でしょう」
レーゼンが手刀や拳、足蹴りを使い次々と下位の吸血鬼の王を倒していくのを見て、二人の将軍が感嘆する。彼女ひとりで、二人以上の働きをしているからだ。
「武術に関しては、妹よりも強いんじゃないかな」
「ユーリット皇女殿下、よりもですか?」
ダーヴィス将軍は戦斧を振りながら驚く。
ユーリット皇女はエルシーネ皇女の妹であり、エースライン帝国の第三皇女だ。
しかも、ユーリット皇女はファルス神教騎士団の騎士団長でもあり、副騎士団長レーゼンの上位者である。
無論、その強さは折り紙つきであり、まだ十代の若さにも関わらず、歴代最強の騎士団長との声も上がっているほどだ。
しかし、そんなユーリット皇女よりも、武術においてレーゼンの方が強いとは。
「それでもまぁ、もし二人が戦えば、最終的に勝つのは妹でしょうけど」
エルシーネが言っている意味がダーヴィス将軍にも分かる。ダーヴィス将軍は戦いながらも、視線をもう一度レーゼンに向けた。
「我々も負けてはいられませんね」
「そうね。それにあっちの方も凄いし……」
エルシーネが指差した方向には、レーゼンと同様、凄まじい勢いで下位の吸血鬼の王を倒している者がいる。
星華だ。
星華はクナイと呼ばれる忍者専用の短刀を左右それぞれに持ち、下位の吸血鬼の王に襲いかかる。星華に襲われた下位の吸血鬼の王の巨体は、わずか数秒足らずで無数の破片と変わり果てる。
「なんか、私たちって足手まといって感じじゃない?」
二人はエースライン帝国が誇る十輝将だ。常人の戦士たちでは束になっても到底敵わない下位の吸血鬼の王を次々に倒している。
しかし、レーゼンや星華と比べると見劣りしてしまっているのだ。
「プライドが傷付くわよね」
「まぁ、適材適所ということでしょう」
ダーヴィス将軍は苦笑した。負けん気が強い皇女殿下から悔しさが滲み出ているからだ。
「それでは、あちらの御仁のように、戦いを任せてのんびり休憩としますか?」
ダーヴィス将軍が視線を移した先では、少年が地面に座りあくびをしながら戦いを眺めている。
剣を持っていないシャスターは、役に立たないからとの理由で自ら戦いを離脱したのだ。
そんなシャスターが二人に気付いたらしく、大きく手を振っている。
「おーい! エルシーネとダーヴィス将軍もこっちにおいでよ。二人がいなくても大丈夫だよー」
嫌味成分が存分に含まれた叫び声にエルシーネはカチンときた。シャスターを睨むと、再び戦いの中へ突入していく。
そんなエルシーネを見て苦笑いをしたダーヴィス将軍もまた戦いの中へ身を投じていった。




