第六十五話 究極の魔物の王
「次の段階に進化した究極の魔物の王の力を十分に味わうがいい」
背中から羽を生やして夜空に浮かんでいるギース子爵が高らかに笑っている。
「魔物の王たちか!」
ダーヴィス将軍が叫んだ。
地上では巨大化したゴブリンやオーク、コボルトなどの魔物の王がこちらを睨んでいる。ダーヴィス将軍が見渡しただけでも、かなりの数の魔物の王に囲まれているようだ。
「でも、この魔物たちって、私が映像で見た魔物の王よりもさらに大きいわ」
エルシーネが首を傾げる。
エースライン帝国の謁見の間でアルレート将軍とゴブリン・ロードが戦っている映像を見たが、その時ゴブリン・ロードの高さはアルレート将軍の身長の二倍ぐらいだった。
しかし、目の前に現れたゴブリン・ロードの高さはダーヴィス将軍のゆうに三倍は超えている。アルレート将軍とダーヴィス将軍の身長は大差ないはずだ。ということは、アルレート将軍が戦ったゴブリン・ロードよりもかなり大きいということだ。
「この魔物たちは下位の吸血鬼です」
突然のレーゼンの声にエルシーネが驚きながら振り向く。
しかし、レーゼンは確信していた。魔物たちの肌の色、そして口から見える牙、さらに血の気のない表情……全てが下位の吸血鬼の特徴を示しているからだ。
「もしかしたら、下位の吸血鬼にした魔物を王化したのかもしれません」
「まさか、そんな……」
「いや、レーゼン殿の言う通りだと思います。ギース子爵は先程、『次の段階に進化した究極の魔物の王』だと叫んでいました。それがこの魔物たちなのでしょう」
ダーヴィス将軍もレーゼンの推測に賛同する。
次の段階が下位の吸血鬼の王化だったのだ。当然ながら、通常の魔物の王よりも格段に戦闘力が高くなる。身体が大きいのもそのためだろう。
そんな魔物の王たちで見渡す限り埋め尽くされている。
木々はすでに魔物の王によってなぎ倒され、地面は激しい隆起を起こしている。おそらく魔物たちは地面の下から現れたのだろう。
城の周りの森は荒れ果てた姿に変わってしまった。
「これこそが私の最高傑作、究極の魔物王である下位の吸血鬼の王だ! ゴブリンなどの魔物を下位の吸血鬼に変えた後、さらに魔物の王にさせることに成功したのだ」
ギース子爵の自信満々な言葉は、レーゼンの推測を肯定するものだった。さらにギース子爵の自慢話は続く。
「魔物の下位の吸血鬼を王化させるために、血の配分が複雑で何度も失敗を繰り返したが、長い月日をかけてやっと完成したのだ」
ギース子爵は自らの努力の賜物に陶酔しているようだ。
「ここにはゴブリンやオーク、コボルトはじめ数種類の下位の吸血鬼の王が約百体いる。下位の吸血鬼の王たちの初めての実践相手として、十輝将なら申し分ない。良いデーターを取らせてもらうことにしよう」
ギース子爵がさらにもう一度高らかに笑った。
対照的にダーヴィス将軍は気を引き締めていた。敵の強さが未知数だからだ。
下位の吸血鬼は倒せる。魔物の王も倒せるだろう。しかし、その両方を合わせた魔物となると、それがどれ程の強さなのか全く読めない。
「さて、どう戦うべきか」
久しぶりにダーヴィス将軍の表情には、緊張感が漂っていた。




