第六十三話 子爵の野望
従者としてダーヴィス将軍の一歩後ろに控えていたシャスターが将軍の隣に立つ。
「つまり、人間が憎いだけの理由で、エースライン帝国に魔物の王化……つまり魔物の王を放ったり、知死者をけしかけたの?」
突然、シャスターが話に割り込んできた。トップ同士の交渉の最中に役柄上とはいえ、副将軍が勝手に話に割り込むなど、あってはならないことだ。
しかも、今回の一番の目的……魔物の王や知死者使ってエースライン帝国を襲わせた張本人が、ギース子爵かどうかを直接聞いているのだ。
通常の交渉であれば、シャスターの発言は失礼極まりなく、相手を怒らせてしまうだろう。
しかし、シャスターには交渉術など関係がなかった。いや、その逆だとダーヴィス将軍は感嘆した。
ギース子爵は情報を小刻みに出してこちらを翻弄させようとしている。
だからこそ、シャスターはあえて本題を真正面からぶつけてギース子爵の反応を確認しようとしたのだ。大胆不敵なシャスターにしかできない交渉術だ。
案の定、ギース子爵は気分を害するどころか、笑い出した。
「憎いだけ? 馬鹿な。そんなことで襲わせたりはしない。あれは 魔物の王がどのくらいの破壊力を持っているかの実験だ。エースライン帝国を襲わせたのは、帝国なら勝手に後始末をしてくれると思ったからだ。案の定、十輝将たちが三匹とも倒してくれた。良いデーターが取れたよ。知死者はそのお礼だ。十輝将たちもたまには強敵と戦いたいだろうからな」
ギース子爵は素直に認めた。隠すつもりもないらしい。
「エースライン帝国を襲ったことを認めるのか?」
ダーヴィス将軍が念押しをすると、ギース子爵は笑いを止めた。
「認めるも何も、帝国は最初から吸血鬼が犯人だと確信していたのだろう?」
「……」
「魔物の王が倒された直後、エースライン帝国の十輝将のひとり、ダーヴィス将軍が自らここに来た。犯人の目星がついていた何よりの証拠だ」
やはり、ギース子爵は最初から分かっていたのだ。
「まぁ、純血種の私ではなく、以前の吸血鬼たちだと思っていたのだろうが」
ギース子爵がわざとらしく笑う。
「今のところはエースライン帝国に手を出すつもりはない。帝国の戦力は大き過ぎるからな。まずはこの地だ。魔物の王を使って、冥々の大地全土を私が手に入れる!」
「冥々の大地全土を支配だと! そんなことができると思っているのか?」
「できるさ。冥々の大地に吸血鬼の国をつくり、アスト大陸の覇権を握っていく。そして、いつかは天界に攻め込んでやる!」
ギース子爵は自信満々に答えながら再び笑い出した。




