第六十話 支配者
「ようこそ、ダーヴィス将軍」
シャスターたちが部屋の中央までくると、豪華な椅子に座っている人物の方から声をかけてきた。
その人物は二十代前半ぐらいの年齢だ。今まで出会った三人の吸血鬼たちよりも若い。
もちろん、吸血鬼に見た目は関係ない。年齢と強さは別物なのだ。
「戦いを拝見させてもらっていたが、見事だった。さすがはエースライン帝国の十輝将と言うべきか。あるいはその少年が凄いのかな?」
青年は自らが格上であるかのような態度で、ダーヴィス将軍に対して話し掛けてきた。
しかし、ダーヴィス将軍は無表情のままだ。しばらく青年を見つめた後、やっと口を開く。
「私のことを知っているようだが、そちらも名乗って貰えないか?」
形の上ではダーヴィス将軍とその配下の者たちとなっている。この場で話を進めるのはダーヴィス将軍だ。
「おぉ、そうであった。大変失礼をした」
青年はわざとらしく詫びた。
「我が名はウラ・イトラ・ギース。イトラ家の一族に連なる者であり、子爵の称号を持っている。ギース子爵と呼んでくれて構わない」
ギース子爵は親しげに話しかけてくるが、対照的にダーヴィス将軍の表情は冷めたままだ。
イトラ家とは何なのか、子爵の階級が何を意味するのか、ダーヴィス将軍は知らない。しかし、今はそんなことよりも先に聞くことがある。
「ギース子爵に質問がある。私がいつも交渉していた吸血鬼たちはどうしたのだ? そして、ここへ来る途中リザードマンと人間の村が何者かに襲われて全滅していた。さらに先ほど吸血狼と吸血蝙蝠、それに下級吸血鬼に襲われたが、それらはあなたの差金か?」
ダーヴィス将軍は言葉を濁すことなく、ありのまま質問をした。
外交とは腹の探り合いをするものだが、ここまであからさまに敵対行動を受けているのだ。隠す必要はないと判断した。
そんなダーヴィス将軍の質問に対し、ギース子爵は少し考える素振りを見せつつ答える。
「一つ目の質問……私は半年前、ここに住んでいた吸血鬼たちから、冥々の大地南西部の支配権を譲り受けたのだ」
「それでは、彼らは今どこにいるのだ?」
「私の監視下に置いている」
「監視下?」
「そうだ。彼らは私を裏切って反乱を起こした。だから監視下に置いたのだ。しかし、殺すつもりはない。そもそも数少ない同族同士だ、丁重に扱っているさ」
嘘だった。すでに吸血鬼たちはギース子爵の命令で殺されている。しかし、交渉の場で正直に話す必要はない。
「二つ目の質問だが……村を襲ったのは我々だ。しかし、問題は村人たちにある」
「どういうことだ?」
「彼らはルールを守らなかったのだよ。だから、滅ぼしただけだ」
ギース子爵は南西部に住む種族たちに税金を課することを通告していた。外敵から彼らを守るのだ、当然の権利だった。
しかし、再三にわたる通告をリザードマンと人間たちは無視し続けた。そこでギース子爵は見せしめとして、村を襲ったのだ。
「馬鹿な! 今までの吸血鬼たちは税金など取っていなかったはずだ。それを無視したからと言って……」
「ダーヴィス将軍、勘違いしてもらっては困る。我々は善意で彼らを守っているわけではない。守ってもらうのなら、それなりの対価が発生するのは当然だと思うが?」
「しかし、それでも無視したからといって村を全滅されるなど……」
「最後の質問だが」
ダーヴィス将軍の話を遮り、ギース子爵は強引に話を続ける。
「吸血狼と吸血蝙蝠、下級吸血鬼を使って、貴方たちを襲わせたのも私の指示だ」
ギース子爵は声を上げずに笑いながら、躊躇することもなく犯行を認めた。




