第五十七話 純血種
「千年の吸血鬼……、まさか純血種が!?」
レーゼンが驚きの声を上げる。
吸血鬼に詳しいレーゼンだからこそ、その意味を知って驚愕したのだ。
「純血種って?」
「吸血鬼の中でも更なる上位種です」
エルシーネの質問を受けてレーゼンは説明を始めた。
吸血鬼は不死であり強靭な肉体を持つため、アスト大陸に住む全種族の中でもかなりの上位種だ。しかし、アンデッドであり生殖能力がないため、個体数がかなり少ない。
そんな吸血鬼の中でも、さらに一握りしか存在しない上位の者たちが純血種だ。
吸血鬼は、人間などに少しだけ血を分け与えることによって下級吸血鬼をつくることができるが、純血種だけは大量の血を分け与えることによって吸血鬼をつくることができる。
つまり、普通の吸血鬼は純血種の吸血鬼から生まれたということだ。当然ながら、普通の吸血鬼よりも格段に強い。
「この二人はただの吸血鬼で単なる実行部隊。純血種というのが黒幕ということね」
エルシーネもシャスター同様、冷たい目で男を見つめた。
「だからといって、二人が許されるはずもないけど」
エルシーネが両腕を失った吸血鬼に剣を抜く動きを見せた。さらに多くの情報を引き出すための脅しであったが、冷静さを失ったノルトにはそんなことは分からない。
「た、助けてくれ! 知っていることは何でも話す。子爵の目的も話す。だから、お願いだ。助けてくれ!」
ノルトは頭を何度も下げて懇願するが、もうひとりの吸血鬼がノルトに向かって叫ぶ。
「黙れ、ノルト! それ以上喋るな! こんな奴ら、子爵がすぐに殺してくださる」
ブランの叱咤でノルトはハッと我に返った。
命乞いするあまり、喋り過ぎたことに気付いたからだ。
子爵のことを話してしまったことは迂闊だった。この後に助かっても、子爵は自分のことを許さないかもしれない。
「す、すまない。ブラン……」
恐怖を感じたノルトはもう何も話さないと心に決めた。
しかし、そんなノルトの固い意志もすぐに溶けてしまう。
凄まじい光景が目の前に飛び込んできたからだ。
「うるさいと言っているだろ」
シャスターが今度はブランに聖なる炎を放つ。
「ぎゃあー!!」
ブランは身体中に広がった炎の中で激しく悶えていたが、それもしばらくすると無くなり、炎も消えた。
跡には何も残っていない。
不死であるはずの吸血鬼が死んだのだ。
仲間の死を間近で見てしまったノルトは半狂乱化してしまった。
「うわぁー!」
暴れながら逃げ惑うノルトだったが、それもすぐに収まった。ノルトもシャスターの炎に包まれたからだ。
激しく燃えながら、ブラン同様にノルトも跡形もなく消失した。
リザードマンや人間の村を滅ぼし、百人以上の人間を下級吸血鬼にした残虐な二人の吸血鬼。
そんな二人にとって、あまりにもあっけない最期だった。




