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第五十三話 許せない相手

 大勢の人間に囲まれたエルシーネは驚きを隠せない。


「殺せ、殺せ!」


「奴らを殺せ!」


 人間たちは敵意丸出しで五人を睨みつけながら叫び続けていて、その声はまるでやまびこのように復唱されて広場中に響き渡る。

 しかし、敵意を向けられている当人たちには恨まれる理由が分からない。


 しかも、目の前にいる人間たちは兵士や傭兵ではない。皆、普通の服装をしていて一般人のようだ。手にしている武器も剣などではなく、それぞれが鍬や斧、金槌などを持っている。女性の中には包丁を持っている者もいる。


 その手にした武器で、大勢の人間たちが今にも襲い掛かろうとしているのだ。



「彼らは何なの? なぜ人間がこんなところにいるの?」


 冥々の大地の人間の村は全滅していたはずだ。それなのに、目の前には百人以上の人間がいるのだ。

 彼らは一体どこから現れたのだろうか。

 凄まじい敵意は何なのか。



「よく見てごらんよ」


 驚いているエルシーネたちとは対照的に、シャスターはひとりだけ冷静だった。だからこそ、取り囲んでいる人間たちを注意深く観察していた。



「……そういうことでしたか」


 先に気付いたのはレーゼンだった。しかも、レーゼンは気付いたことによって悲痛な表情をしている。

 続いてダーヴィスも気付いた。そして、最後にエルシーネも目の前の人間たちの変化に気付いた。


「彼ら生気がない……ゾンビ!?」


 彼らの肌は青白く血色がないのだ。まるで死人のように見えるのだが、レーゼンが否定する。


「いえ、ゾンビにしては身体が朽ちていません。それに意思もあるようですし、動きも機敏です」


「それじゃ、やはり……」


 エルシーネは苦渋の表情で人間たちを見つめた。

 本当は彼女も人間たちがゾンビではないことに気付いていたのだ。しかし、そう思いたかったのは理由がある。死んだ人間が魔物になったゾンビであれば、戦う相手としてそこまで躊躇しなくて済むからだ。



「この状況下で考えられるのは一つだけです」


 レーゼンは森の奥、古城にいるはずの吸血鬼(ヴァンパイア)に向けて鋭い視線を送った。百人以上の生きている人間に対し、どうしてこんなにも非道なことができるのかと憤慨する。

 吸血鬼(ヴァンパイア)たちは今頃、この状況を見て楽しんでいるのだろうか。それがレーゼンには許せなかった。


 城を睨みながら、レーゼンは正体を言い放つ。


「彼らは下級吸血鬼レッサー・ヴァンパイア吸血鬼(ヴァンパイア)によって魔物化された人間たちです」



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