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第五十一話 青年と三人

「ところで、エースライン帝国の動きはどうだ?」


 青年はリザードマンと人間の村を滅ぼしたノルトに視線を向けた。


「奴らは全滅したリザードマンに驚いて、すぐに人間の村に移動したようですが……」


 ノルトは、クックックっと楽しそうに残虐な笑みを溢す。


「人間の村も全滅しているのを見て、悔しがっているんじゃないでしょうか」


「奴らは気付いたのだな?」


「いくつか証拠を残してきたので、犯人は我々だと気付いているはずです。それでも、逃げ出さないということは、余程のマヌケですよ」


 蝙蝠を使って遠くから監視しているため、エースライン帝国の人間たちの動きは把握している。こちらに向かってきているのは確かだ。

 しかも、帝国のパーティーはたった数人だ。その程度の戦力で吸血鬼(ヴァンパイア)の我々と戦うつもりなのか。ノルトとしては嘲笑せずにはいられない。


 しかし、そんなノルトの笑いを無視するかのように青年は考え込んだ。



「……エースライン帝国の将軍はダーヴィスという名だったか」


「はい。十輝将のひとりであり、武だけではなく智も優れているという噂です」


 三人の中でエースライン帝国に一番精通しているダルが答える。


「そんな男が僅か数名でこちらに向かってくるのは何故だ?」


 青年の質問の後、暫し時が流れた。



「まさか! 何か策を弄していると?」


 ダルが声を上げる。


「そう考えると納得がいく」


「確かに」


「用心した方がよいな」


 青年とダルとの会話にブランも納得の表情で頷くが、ノルトだけは違った。


「奴らは、俺たちのことを以前の吸血鬼(ヴァンパイア)だと勘違いしているのではないですか? だから気を抜いているのだと思いますよ」


 ノルトの考えも一理ある。

 半年前、青年たちが冥々の大地に来た時、南西部はすでに別の吸血鬼(ヴァンパイア)たちが支配していて、この古城に住んでいたのだ。

 しかし、青年は同族であるはずの吸血鬼(ヴァンパイア)たちを力ずくで倒すと、城の地下に幽閉し支配権を強引に奪ったのだった。

 他種族とのうのうと共生している吸血鬼(ヴァンパイア)たちを青年は許せなかったのだ。


「あのような惰弱な奴らは吸血鬼(ヴァンパイア)の恥だ。我々こそが本来の吸血鬼(ヴァンパイア)。ここ冥々の大地に吸血鬼(ヴァンパイア)の王国をつくる」


 その野望に賛同したのが、ブラン、ノルト、そしてダルだった。


 あれから半年、準備は着々と進んでいる。



「ところで、地下に幽閉した吸血鬼(ヴァンパイア)たちはどうしているでしょうか?」


「殺した」


 ダルの質問に青年は素っ気なく答える。


「ダルよ、お前がこの二週間、南東部へ遠征に行っている間にな」


「俺たちが奴らに太陽の光を浴びせて殺したのだ」


 ノルトとブランが意気揚々と話す。

 三人はライバル関係だったが、その中で頭ひとつ抜き出ているのがダルだった。だからこそ、青年から南東部の支配者ケンタウロスの討伐という重要な任務を任されたのだが、それがプランとノルトには気に入らなかった。

 

 しかし、今回ダルが南東部に出征している間に、ブランとノルトは青年に命じられて吸血鬼(ヴァンパイア)たちを処刑した。

 さらに、ノルトはリザードマンと人間の村、ブランは人間の村二つを滅ぼすことを命じられた。

 強力なライバルであるダルが遠征中に、青年から幾つもの命令を与えられたことが、二人には嬉しいのだ。



「これから大きな戦争を起こそうというのに、後顧の憂いがあるのは嫌だろう。そこで吸血鬼(ヴァンパイア)の処刑を二人に命じたのだ」


「……そうでしたか、分かりました」


 ダルは少し表情を曇らせた。それはそうだろう、ノルトとブランに功績を奪われたのだ。悔しくないはずがない。



「もし、帝国の奴らが以前の吸血鬼(ヴァンパイア)と我々を勘違いしているのならそれでよし。騙されたまま死んでもらうことにしよう」


 青年の言葉で作戦は決定した。

 三人はもう一度頭を下げると、ダーヴィス将軍たちを殺す準備に取り掛かった。



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