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第四十九話 血の儀式

 燭台のロウソクが静かに灯っている薄暗い部屋。

 すでに夕刻を過ぎた時間であったが、この部屋では昼と夜の境がないため時間の感覚がない。深い森の中なので、窓から光が差し込まないのだ。


 そんな薄暗い部屋の中央に置かれた玉座、そこには誰も座っていないのだが……。


「お許しください、お許しください!」


 空席の玉座に向かって若い女性が必死になって懇願している。手は震えて顔は涙でボロボロになっているが、そんなことは気にする余裕もなく女性はひざまずいて手を合わせていた。



「そんなに怖がる必要はない」


 誰もいない玉座から優しい声がした。

 次の瞬間、部屋の側面の窓が轟音とともに真っ白に光る。どうやら近くに雷が落ちたようだ。女性は驚いて窓を見るが、すぐに玉座に視線を戻す。

 すると、いつの間にか玉座にはひとりの青年が座っていた。


 透き通るような真っ白な肌に細い体型、ブロンズ色の髪を手でかき上げる仕草は、まるで彫刻のように美しい。



「お願いします。どうかお助けください!」


 女性は青年に手を合わせて懇願した。

 青年はもう一度微笑む。


「もちろん、君は助かるよ。村の住人でなぜ君だけを助けたのか分かるかい?」


「……いいえ」


「君が美しかったからだよ。さぁ顔を上げて、その綺麗な瞳を見せてくれないか」


 女性はおそるおそる青年の真っ赤な瞳を見る。

 次の瞬間、女性は焦点を失ったまま呆然と立ち尽くした。


「こっちにおいで」


 青年の言葉に反応するかのように、女性はゆっくりと歩き出す。その動きは、まるで操り人形のようだ。


「いい子だ。良いものをあげよう」


 言われるがまま、女性は青年の前に立った。すると青年は女性の顔を自分の顔に近づける。しかし、くちづけをするわけではない。そのまま女性の首筋に口を当て優しく噛み付いた。

 女性の首から二筋の血が流れる。

 それとともに血色の良かった女性の肌が青白く変貌し、瞳の色が青年と同じ真っ赤に染まっていく。



「私の下級吸血鬼レッサー・ヴァンパイアに加えてあげよう」


「ありがとうございます」


 今までの泣き叫びが嘘だったかのように、女性は静かに頭を下げた。




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