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第四十六話 カリンの修行4

「エルシーネ皇女殿下の妹君が、ファルス神教騎士団の騎士団長!?」


「そうだ。カリンはエルシーネ皇女殿下から聞いていなかったのか?」


 マレードが尋ねるが、カリンは大きく頭を横に振った。


 そんな話は聞かされていない。以前に「妹はいつもは帝都にいるんだけど、今は所用で他国に行っているみたいなの」とは聞いていただけだ。それに「戻ってきたら会わせてあげる」とも。

 確かに、ファルス神教騎士団の騎士団長も他国にいて帝都には不在だとは聞いていた。それにエルシーネ皇女から「妹は神官」だとも。

 しかし、これらを結びつけることまでは、さすがにカリンには無理だった。


 妹の正体をカリンに話していなかったことについて、エルシーネに悪気はないのだろう。妹の話が出てきたのはその時だけだし、そもそも話すことを忘れていた可能性の方が高い。

 しかし、クラム大神官長は、カリンが第三皇女の正体を知らないという事実を知った上で、敢えて話していなかったのだ。このタイミングでカリンに驚いてもらうために。


 カリンの驚いた顔を見て大神官長は笑っている。

 カリンもだんだんとクラム大神官長が「困ったお人」だと、分かり始めてきた。



「ユーリット騎士団長は姉君のエルシーネ皇女殿下ととても仲が良いんだ。だから、エルシーネ皇女殿下からカリンの話を何度も聞いているはずだ」


 それで、会ってもいないカリンに団長は好印象を持って勝手に友達だと決めつけたのだ、とマレードは付け加えた。

「勝手な思い込みをする独特なところがある」と、マレードが団長について述べていたのはこのことだったのだ。



「マレードさんの言うとおりです。ユーリット騎士団長に、カリンさんの護衛としてファルス神教騎士団の精鋭騎士をお願いした時、二つ返事で了解を頂けましたから」


 笑いを収めたクラム大神官長が、マレードの推測を補足した。

 ファルス神教騎士団はエースライン帝国におけるファルス神教内の組織ではあるが、騎士団として独立しているため、クラム大神官長といえどもファルス神教騎士団に対して命令権はない。

 そのため、騎士団を派遣する場合、騎士団長であるユーリット皇女に頼むことになる。

 しかし、カリンの護衛を依頼をした時、ユーリット騎士団長のほうから「マレードを護衛にします」と言われたのだ。

 これにはクラム大神官長も驚いた。既にナンバー2のレーゼン副騎士団長を冥々の大地に派遣している。つまり、ユーリット騎士団長も不在の今、ファルス神教騎士団のトップはナンバー3であるマレード第一分団長なのだ。

 しかし、そのマレードをカリンの護衛に派遣してくれるとは……。


「つまり、ユーリット騎士団長にとってカリンさんという存在はそれほど大切なのですよ」


 クラム大神官長はもう一度笑った。



「エルシーネ第二皇女殿下がペガサス騎士団の騎士団長で、ユーリット第三皇女殿下がファルス神教騎士団の騎士団長ということですか!」


 凄い姉妹だとカリンは素直に感嘆した。

 エルシーネ皇女がペガサス騎士団の騎士団長だと初めて知った時、カリンは皇女への名誉職のようなもので、エルシーネ皇女に騎士団長としての実力はないのだろうと思っていた。

 しかし、その考えが浅はかだとすぐに思い知らされた。圧倒的な実力を伴って、エルシーネはペガサス騎士団長、そして十輝将まで登り詰めていたのだ。


 ということは、ユーリット皇女も名誉職として、ファルス神教騎士団の騎士団長に就いているはずがない。きっと、とんでもない実力の持ち主なのだろう。


「ああ。ユーリット騎士団長は騎士としても神官としても凄い方さ」


 マレードはまるで自分のことのように誇らしげに話した。


「確かユーリット皇女殿下はまだ十八歳ですよね。私と同じ歳なのに凄いです!」


 カリンは、エルシーネ皇女が「妹と同じ歳ね」と言っていたことを思い出した。

 自分と第三皇女を比べるなどおこがましいことだと承知しているが、それでも十八歳という若さで騎士団長とは、とてつもなく凄いことだ。


「何を言っているんだ! カリンだってファルス神教の祝福者(ファルス・ブレッサー)だろ? 私は団長と同じくらいカリンも凄いと思うぞ」


 マレードは笑いながらカリンの背中を叩いた。マレードはファルス神教の祝福者(ファルス・ブレッサー)の本当の意味……カリンがファルス十二神全てとの契約者であることを知っているのだ。



「私からしてみれば、その若さで神官総長であるマレード様もかなり凄いと思いますよ」


 ザーラ神官長が嫌味のない苦笑をした。自分の年齢の半分ほどの少女が自分よりも二つも上の職位なのだ。


「えっ!? マレードは神官総長なの?」


 カリンにとっては驚きの連続だった。

 巨大都市ベックスのケーニス神官総長をカリンは思い出していた。四十代の若さで神官総長になったケーニス神官総長をカリンは凄いと思っていたが、自分とあまり年齢の変わらない目の前の少女が神官総長だとは。

 あまりにも突拍子過ぎて、にわかに信じられない。


 「神官職でいえば、私は神官総長だ。聖騎士(パラディン)なので神官職が専門という訳ではないがな」


 マレードは屈託のない笑顔で肯定した。


 その笑顔を見て、カリンは改めて納得した。よくよく考えれば、騎士と神官の能力を併せ持つ聖騎士(パラディン)の集団であるファルス神教騎士団、マレードはそのナンバー3なのだ。神官としても相当レベルが高いはずだ。



「さてと、皆さんの自己紹介も終わったようなので、今日はこれで終わりにしましょう。カリンさん、明日からの修行、頑張りましょうね」


「は、はい!」


 どうやらカリンが驚く事実は全て出し切ったようだ。満足そうな表情のクラム大神官長を見てそれを悟ったカリンは、気を引き締めた。

 なんとなく終始クラム大神官長の手のひらの上で踊らされていた感があったが、いよいよ修行が始まるのだ。

 


 早く神官のレベルを上げて、ファルス神教の十一神それぞれの信力を使いこなせるようになくてはならない。

 そして、冥界神デーメルンとの信力に勝ち、フローレを魂眠から助けだすのだ。


 (フローレ姉さん、待っていてね!)


 そう決意したカリンの瞳には希望が輝いていた。






皆さま、いつも「五芒星の後継者」を読んで頂き、ありがとうございます!


四話にわたってのカリンのお話を掲載しました。

「カリンの修行」と言っても、自己紹介だけで終わってしまいましたが……。


次回からはまたシャスターたちのお話に戻りますが、カリンのお話についてはこれからも時々掲載していきたいと思います。


それでは、これからも「五芒星の後継者」をよろしくお願いします!


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