第四十五話 カリンの修行3
「それに、うちの団長からも先ほど魔法の鏡越しに、『カリンさんは私の大切なお友達です。しっかり守ってね』とキツく言われているのだ。何があっても必ずカリンを守る」
マレードは力強く断言する。とても心強い言葉だ。
しかし、またもやカリンの頭には疑問符が浮かんだ。
「えーと、なぜそこに騎士団長が出てくるの?」
カリンはファルス神教騎士団の騎士団長に会ったことはない。それに、先程クラム大神官長の執務室で、シャスターが「騎士団長は他国にいて不在」だと話していたはずだ。帝都に来たばかりのカリンが騎士団長とすれ違うことさえ無いはずだ。
それが「大切なお友達」とは、一体どういうことなのだろうか。
「私も驚いたさ、団長がカリンと友人だったなんて」
カリンが帝都にいる神官たちの間で一躍有名になったのは、昨日の凱旋時にシャード皇帝から直接カリンが「ファルス神教の祝福者」と呼ばれたからだ。
それまで帝都にいる神官たちはカリンの存在さえ知らなかった。それなのに他国にいる団長がすでにカリンと友人だったとは。
「しかし、よくよく考えれば納得もできる。カリンはずっとエルシーネ皇女殿下と行動を共にしていたのだろう? エルシーネ皇女殿下はカリンのことをかなり気に入っているんじゃないか?」
マレードは笑うが、カリンはますます理由が分からなくなる。
畏れ多いことであるが、どうやらエルシーネ皇女殿下が自分を気に入ってくれていることはカリンも分かっている。しかし、そのことと、ファルス神教騎士団長の何が関係しているのか。
「それで、団長もカリンのことを一方的に友人だと思っているんだ。あの人、勝手な思い込みをする独特なところがあるから」
マレードはここにはいない団長に対して苦笑したが、悪意は全くない。むしろ好意的だ。
しかし、だからこそ、さらにカリンは何が何だか分からなくなる。
そんな頭の中が混乱しているカリンを見ながらクラム大神官長は静かに微笑んでいる。しかも、またも悪戯っ子の表情だ。
「もしかして……」
クラム大神官長の表情に気付いたマレードは「困ったお人」のもう一つの悪ふざけに気付いてしまった。
「クラム大神官長! カリンに団長のことも話していないのですか?」
「それも貴女が来てからと思ったのですよ」
クラム大神官長の少女っぽい笑顔にマレードは再びため息をついた。
「……それでは、私からカリンに話しても良いですよね?」
「もちろんですよ。どうぞ、どうぞ」
クラム大神官長はソワソワと嬉しそうにしているが、それを敢えて無視してマレードはカリンに向き合った。
「カリン、うちの団長はな」
「は、はい」
「エースライン帝国、第三皇女ユーリット様。エルシーネ皇女殿下の妹君だ」
「えっ!? え……えっー!」
カリンは驚きのあまり、しばらくの間呆然としてしまった。




